赤い指 東野圭吾


2010.2.21  ラストの理由に納得できるか 【赤い指】

                     
■ヒトコト感想
家族関係の希薄さを感じさせる作品。ミステリー風だが、大きなトリックがあるわけではない。ラストに大きな驚きがあるが、それもどこか規定路線のように感じられた。引きこもった中学生を持つ親であり、認知症を発症した母親の息子でもある男。どうにもならない事態に追い込まれたとき、平凡であるはずの家庭を守るため、男は大きな賭けにでる。まず引きこもり中学生とその母親にイラ立ち、男の煮え切らない態度と、常識はずれな思考原理に驚きを感じた。本作は加賀刑事シリーズだが、加賀に対しての印象もあまりよくはなかった。しかし、それが結末になると大きく変わってくる。ラストに大きな感動を引き起こそうとし、実際にそうなりかけたが、イマイチ乗り切れなかった。それはおそらく、登場人物たちが起こした行動の理由に最後まで納得できなかったからだろう。

■ストーリー

少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。一体どんな悪夢が彼等を狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼等自身の手によって明かされなければならない」。刑事・加賀恭一郎の謎めいた言葉の意味は?家族のあり方を問う

■感想
刑事側の視点と犯人側の視点で描かれる本作。それぞれの着目点や思惑などが交錯し、読者は神の視点で両方の立場を経験することになる。前半から引きこもりの息子と、それをかばう妻の言いなりになる男が登場する。平凡な家庭でありながら、突然起きた事件にどう対応するのか。男は普通の心境ではありえない選択をする。そのとき感じたのは、作者はこの家庭を最初からまともな家庭として描こうとはしていない、ということだった。認知症の義母を面倒見たくない妻。わがまま放題の息子。すべてが自分勝手な自己中心的行動にほかならない。

犯人視点ではイラつき、刑事視点では、死を間近にひかえた父親にまったく会おうとしない加賀に違和感をもった。ラストになれば、その理由もはっきりとし、納得してしまうのだが、よく考えればかなり異常なことだ。本作では加賀も犯人家族も、そして認知症を発症したと思われる母親であっても、どこか異常に感じてしまった。結末では今までのすべての行動に対しての説明がなされている。新人刑事はすべてに納得したような描かれ方をしているが、到底そうは思えなかった。例え何かを伝えたかったとしても、何かを経験したかったとしても、それは時と場合によるだろう。

ラストにしっかりと驚く要素はある。ただ、それに納得はできない。ミステリー的な驚きというよりも、普通の心情であれば、決してできないことを平然とやってのけている。このことを本作のメインと考えるなら、読んだ直後は多少感動するかもしれないが、よく考えると「おかしいぞ?」と思うことだろう。本作の事件は加賀刑事でなくともいずれ解決されていたはずだ。家族が選んだ選択肢は穴だらけであり、すぐに不自然さがでてくるようなことばかりだ。ただ、加賀刑事の突出した観察眼のすばらしさと推理能力、そして、捜査のイロハについては、唸らされるものがあった。

結末はある程度予想できるが、そこに至る家族の気持ちは最後まで理解できなかった。、




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