2012.7.19 必死に生きるホームレス 【優しいおとな】
評価:3
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■ヒトコト感想
年齢に関係なく、ホームレスが大量に存在する世界。渋谷を舞台にホームレスの少年イオンがどうなっていくのか。最初に読んだ印象は、桐野夏生らしくないということだ。どちらかといえば、村上龍に近いのかもしれない。地下で生活する闇人や川で生活する川人。それぞれのコミュニティでのルールや、自由を得るための戦いなど、権力闘争や、現代社会のあり方を問うような雰囲気は、まさに村上龍だ。なぜ作者が急に本作のような作品を描いたのかは不明だ。ホームレスの少年が様々な苦悩にぶち当たりながら、生きるために必死にもがく姿が、近未来の世界を思わせる雰囲気の中で描かれている。何かの仕組みによってこの世界が作られたのか、ホームレスが大量に存在する世界に、答えは示されていない。
■ストーリー
家族をもたず、信じることを知らない少年イオンの孤独な魂はどこへ行くのか―。
■感想
子供のホームレスが当たり前に存在する世界。極度に貧富の差が広がった結果なのか、社会保証システムが崩壊したのか、ホームレスが大量発生する世界について特別な説明はない。唐突に始まるのその世界で、必死に生きる主人公のイオン。このイオン目線で物語は語られていく。ホームレスの中には、いくつかのコミュニティがあり、子を持つ母親たちのマムズ、地下で暮らす夜光部隊など、日本は異常な世界として描かれている。もしかしたら、最底辺だけをクローズアップした結果、このような描き方になったのかもしれないが、日本が変化したにしては、あまりに過激すぎるように思えた。
荒れた世界で、イオンはたくましく生きる。日々生きることに心血を注ぎ、食べ物と暖かい寝床確保に必死になる。イオンがアンダーグランドの世界へと移り住むと、そこからは、奇妙な世界がさらに加速していく。近未来の日本を描いたようであり、終始暗い未来を暗示しているようでもある。この手の作品は、村上龍が好んで描く作品だ。「歌うクジラ」や「半島を出よ」など、未来に夢も希望も持てないような流れだ。本作の世界は、ホームレスという限定的な世界だけかもしれないが、全体から漂う気配は、暗く陰鬱なものだ。
本作で唯一のまともな存在と思われたモガミ。優しいおとなというタイトルを説明するような言葉があちこちにある。ホームレスにとっての優しいおとなとは何なのか。モガミは優しい大人なのか。ジワジワと心に入り込むような、特殊な悲しさがある。ホームレスをテーマとした作品でありながら、どこかファンタジーの香りがするのも、作者の作品にしてはめずらしい。リアルな現実を描く作者が、本作のような雰囲気の作品を書いたというのが、実は一番の驚きかもしれない。
ホームレスの世界を複雑怪奇に描いた作品だ。
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