2013.6.18 リアルすぎるイジメ物語 【沈黙の町で】
評価:3
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■ヒトコト感想
イジメをテーマとした物語なのだが、強烈なリアルさがある。イジメ問題と言えば重松清の作品や、宮部みゆきは本作と似たテイストの「ソロモンの偽証」などがある。が、それらよりも本作の方がすばらしい。中学生が何を重視し、何をもっとも嫌がるのか。刑事や親、教師の目線で語られる中学生と、中学生自身が感じる思い。綺麗ごとではすまされない、中学生のリアルな物語がそこにはある。
意図しないイジメや、イジメられる側の問題など、イジメの裏側まで描いている。そのため、誰が決定的に悪いだとか、結末がどうとかいうことより、刻々と推移していく物語に圧倒されるばかりだ。イジメの真実を探るなんていうわかりやすい物語ではない。誰が悪いのかよくわからない、この曖昧感こそがイジメの本質なのかもしれない。
■ストーリー
中学二年生の名倉祐一が部室の屋上から転落し、死亡した。屋上には五人の足跡が残されていた。事故か?自殺か?それとも…。やがて祐一がいじめを受けていたことが明らかになり、同級生二人が逮捕、二人が補導される。閑静な地方都市で起きた一人の中学生の死をめぐり、静かな波紋がひろがっていく。被害者家族や加害者とされる少年とその親、学校、警察などさまざまな視点から描き出される傑作長篇サスペンス。
■感想
宮部みゆきの「ソロモンの偽証」が同じように、事故か事件かイジメなのかというミステリーだ。本作はミステリーとして描かれてはいない。が、ソロモンの偽証よりもミステリアスだ。宮部みゆき作品の中学生たちが、綺麗ごとを口にする中学生日記の登場人物のように思えた反面、本作の中学生たちはまさに日常に存在する中学生だ。
中学生の世界では何を重要視し、何を最も嫌悪するのか。大人の世界では到底想像できない中学生だけの世界がそこにはある。中学生の気持ちがまったくわからない親や教師たちの目線が、さらにリアルさを増幅させている。
イジメられる側に問題がないのか?なんてことはよく言われる話だ。本作では、若干、イジメる側を良く描いており、イジメられる側やその親に問題があるようなスタンスだ。が、作中では何より子供を失った親の主張が通るような描かれ方をしている。
強烈だが、これが真実なのだろう。綺麗ごとではすまされない、人間の悪しき心が、そのまま表現されているようで、心が痛くなる。物語は結末をはっきりと描かない。が、事件の真相は明らかとなる。今後、親や教師たちはどうするのか、考えるだけで恐ろしくなるような結末だ。
作者の作品は読みやすく、恐ろしいまでのリアル感でせまってくる。読んでいて、「そんな中学生いないだろ!」と思う他のイジメ問題を扱った作品とは違う、人間の醜い部分をそのまま描いている。作者がどれだけ先のことを考えて描いているのかわからないが、最初の印象とはまったく異なる結末に驚いてしまう。
もしかしたら、中学生を子に持つ親が本作を読んだとしたら、自分の子供のことが心配になるかもしれない。イジメ問題に揺れる親や教師たち以上に、子供の世界の重要性がわかる物語かもしれない。
綺麗ごとではすまされない、強烈なインパクトがある。
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