サラダ好きのライオン  


 2012.11.1    挿絵にヘンなユーモアがある 【サラダ好きのライオン】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

いつもの村上春樹のエッセイだ。安心して読めるかわりに新鮮さはない。いつもの村上節が炸裂し、のんびりと俗世間の騒がしさから一歩引いたような、そんなノンビリエッセイだ。世間に対してもの申す内容であってもどこか遠慮がちに主張する。ジョギングが趣味で野菜好きで音楽と旅行も好き。すでにおなじみとなった作者の趣味の数々。今さらながら、作者のファンならば目新しいことはないだろう。わりと新しいエッセイ集のため、時事問題をあつかっている部分は新しい。特別笑いがあるわけでもないが、奇妙な挿絵によって変なユーモアがある。これは村上春樹のエッセイすべてに言えることだが、挿絵で随分と雰囲気が変わっている。作者のエッセイは楽に読めるというのがすべてだろう。

■ストーリー

男がオムレツを作るとき、どんな風景がいちばんふさわしいでしょう?おたくの猫には、音楽の好き嫌いがあると思いますか?村上春樹さんは占い師として、はたして大成したでしょうか?etc. 最新のムラカミ情報満載! の「村上ラヂオ」第三作。

■感想
あいかわらずの村上春樹のエッセイだ。おいしいオムレツの作り方や、旅行先での出来事など、ごく普通のエッセイとなんら変わりはない。ただ、作者の独特な文体と、作家として大成したにも関わらず、偉そうなところがいっさいない、いつものスタンス。飼っていた猫がどうだとか、占い師として活動していたとか、ジャズ喫茶をやっていたことがつらつらと書かれている。何か、他人のちょっとした日常を読んでいるような気分になるのはもちろんだが、それが有名作家ということで、思わず読みふけってしまうのだろう。

面白さで言うと「村上朝日堂」シリーズにはかなわない。ユーモアはいつものヘンテコな挿絵によってもたらされてはいるが、内容としては、それほど印象的な面白さはない。トライアスロンに参加し、36歳の男を抜いたら騒がれたとか、旅行に行ったらシャツやパンツは旅行先に捨てるが、かわりに中古レコードを山ほど買ってしまう、なんてことは普通ならどうでもいいことなのかもしれない。それが、なぜか興味を惹かれて読みすすめてしまう。エッセイとして、とりたてて特徴はないのだが、なぜかやめられないとまらない。かっぱえびせんのようなエッセイ集だ。

本作の中でもっとも印象深いエッセイは「ブルー・リボン・ビールのある光景」だ。アメリカの労働者階級が飲むビールらしい。映画「グラン・トリノ」の中で飲まれていたものらしいが、確かに思い出すとクリント・イーストウッドが頻繁に飲んでいたのを覚えている。正直、ビールはあまり好きではないが、エッセイを読んだことで、飲んでみたくなった。おそらく飲んだら「こんなもんか」と思うのだろうが、作者のエッセイを読むと、ものすごくうまそうな飲み物に思えてくる。

作者のいつものエッセイとして、安心して読める作品だ。




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