2011.12.5 時は人にやさしい 【リセット】
評価:3
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■ヒトコト感想
時と人シリーズ。スキップとターンが強烈に印象に残っているので、本作にも否が応でも期待感は高まった。スキップやターンと比べると、時が人に対してやさしいという印象がある。時の流れよりも、時代を感じずにはいられない。戦時中の第一部と過去の回想がメインの第二部。それぞれの時代に生きる人の必死さと、時代を感じさせる数々の描写。本作のメインの仕掛けよりも、時代の描写に心奪われてしまった。はるか昔のことではあるが、目の前にその情景が浮かび上がってきた。時がもつれ合い、不幸な結末さえもファンタジーな流れでハッピーエンドにする。SFのようにも感じられるが、濃密な時代描写によって、作者の雰囲気が強くでている。
■ストーリー
「また、会えたね」。昭和二十年五月、神戸。疎開を前に夢中で訪ねたわたしを、あの人は黄金色の入り日のなかで、穏やかに見つめてこういいました。六年半前、あの人が選んだ言葉で通った心。以来、遠く近く求めあってきた魂。だけど、その翌日こそ二人の苛酷な運命の始まりの日だった。流れる二つの《時》は巡り合い、もつれ合って、個の哀しみを超え、生命と生命を繋ぎ、奇跡を、呼ぶ。
■感想
時代を超えた再会の物語。冒頭は昭和二十年、戦時中の物語となっている。まず、ここで不自由な暮らしの中で、淡い恋心が芽吹き始める。戦時中の物語であれば、避けようのない出来事がある。深い悲しみにぶち当たり、悲しみにくれる。第一部まででは、時と人との繋がりというのはほとんど感じることができない。それが、第二部になると、おぼろげながら感じるものがある。はっきりとは明記しないが、小出しにされる第一部の名残りに、読者はいろいろな想像力を働かせることだろう。中盤になると、はっきりと仕掛けが示される。
第二部では、ある人物の回想形式で物語が進んでいく。現代へと繋がる物語ではあるが、この時点ではまだ最後の仕掛けに気付くことはない。回想の中で奇妙な感覚というのが語られ、時代を超えた再会というのを感じることになる。これだけで終わっていれば、なんてことないごく普通の”生まれ変わり”と錯覚させるような物語でしかない。時代の濃密な描写はすばらしいが、平凡な作品というイメージだけだっただろう。それが、第三部となり、さらなる展開が待っている。第三部によって、時が人にやさしく、そしてハッピーエンドを時が演出しているというのがよくわかる。
実在の事故を登場させ、それに登場人物たちを絡めることによって、時代を意識させている。山あり谷ありな物語であることは間違いない。せっかく、時を超えて再会できたかと思いきや、すぐに悲しい別れが待っている。なんて残酷で悲しい物語なのだと思いつつも、残りのページ数を確かめ、まだ何か救いがあるのではないかと想像してしまう。物語は、予想通り、時のやさしさによってハッピーエンドへと導かれている。なぜ、第二部で回想形式にしたのか、その理由もわかった。三つの時代に大きな意味があったのだ。
作者の時と人シリーズは、すべてレベルが高い。
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