2011.10.15 単純なタイムスリップモノではない 【スキップ】
評価:3
■ヒトコト感想
単純な、時間を越えるSFモノではない奥深さがある。昭和40年代の描写がすばらしく、そしてタイムスリップしてきたように現代の習慣にとまどう真理子もすばらしい。女子高生が突如として25年もの時間をスキップするというとんでもない展開に引き付けられた。時間を超える感覚というのは、本来なら想像できないはずが、本作を読むことで、まるで自分が経験しているようなインパクトがある。花も恥らう女子高生が突然アラフォーの主婦となる。その衝撃的展開と、その後、日常へなんとか馴染もうと四苦八苦する姿は感動すらおぼえてくる。ラストの展開も、ありきたりなSF風に、あっさりと昔に戻るというのはでない。時間を超えた経験には理由がある。しっかりと練りこまれた作品だと、最後に気付くことになるだろう。
■ストーリー
昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたしは家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったのか。独りぼっちだ―でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、『わたし』を生きていく。
■感想
目が覚めると、突然42才の子持ちになっている。人生の中で怖いものなしの、一番楽しい時期である17歳から、突如として自分がおじさん、おばさんになったとしたら、なんてことを思わず考えてしまう。作中での真理子の嘆き悲しむ様子というのは、正直な反応だろう。もし、自分がそうなったらと考えると、失った時間と経験の大きさから頭の中が真っ白になり、生きていくことすら辛くなるかもしれない。そんな状況の中、真理子は時代のギャップを感じながら、なんとか現代の生活に馴染もうとする。単純な時間旅行系のSFだと最初は思っていた。
物語が進むにつれ、心は17歳の真理子が、国語教師としての生活を続けようとする。普通に考えれば、常識的ではない。夫に対しても、嫌悪感をいだくほど純粋な女子高生だった者がそれほど簡単に国語教師として新たな道を歩めるのか。読者の疑問どおり、真理子は四苦八苦し、そしてこのあたりからただの時間旅行系のSFとは違う雰囲気がただよってくる。今いる世界は自分がいる場所ではないと切り捨てるのではなく、どうにかしてその世界に慣れようとする。悲劇を悲劇として受け入れる勇気を読んでいると、元気がわいてきた。
ラストにはしっかりと時間を超えた理由が語られている。ありきたりなSFではない。時間がスキップしたのには、それなりの理由がある。それが例え悲劇的な結果を生み出したとして、それは真理子の心がそうしたのだろう。何かをきっかけとして元の世界に戻り、めでたしめでたしではつまらなすぎる。本作の終わり方のような、あとに引きずる強烈な余韻はすばらしい。女子高生が瞬時に主婦となり、そして教師として生活していくなかで、真実を見つけ出す。冗長に感じた教師の描写にも、大きな意味があったのだ。
単純なSFではない奥深さがある。
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