ターン  


 2011.10.27  常に同じ毎日を繰る返す 【ターン】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

常に同じ毎日を繰り返す。平凡なサラリーマンのグチのようだが、主人公の真希はまぎれもなく、ある時間をさかいに同じ日を繰り返してしまう。何かをやったとしても、時間がくればすべて元通りとなり、気がつけば、昨日と同じ風景がそこにはある。もし、自分が一人きりでそんな場所にとり残されたとしたら…、なんてことを常に考えながら読み進めてしまう。パラレルワールド的な流れとすれば、東野圭吾のパラドックス13も同じように考えたことだが、本作の主人公の礼儀正しく前向きな思考には驚かされる。誰もいない店で、自分が持ち出すモノの代金を置いていく。時間がくればすべて意味がなくなるとわかっていながらだ。一歩間違えれば、気が狂いそうになる世界だ。

■ストーリー

真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。いつかは帰れるの?それともこのまま…だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。

■感想
車の事故によって突然異世界へと飛ばされてしまう。それも、同じ毎日が繰り返される世界だ。最初に思ったのは、真希と同じように、何をしても自由だというちょっとした開放感だ。普段では手の届かない店に行って食事をしたり、ストレス解消に好きなだけ買い物をしたり、見たかった絵を見て、行きたかった場所へ行く。ただ、それも時間がくればすべて元どおりのになっている。同じ日が繰り返されるというのは、よく考えれば地獄のような日常なのだと、読みながら途中で気付いた。

作中では、かすかな希望がうっすらと浮かび上がる。偶然繋がった一つの電話によって、現実世界と会話ができることだ。確かに、そんな希望がなければ早々と絶望に苦しむだろう。何をやっても意味がない。前に進むでもなく、後戻りするでもない、ただ同じ毎日を繰り返す。ふと、サラリーマンも同じことを繰り返しているのではと思ったが、それは感覚的な話で、実際には今日やった仕事は、明日には続きができる。この、何かをやった証を残せるというのは、とんでもなく重要なことなのだと思った。

物語の後半には、同じく繰り返しを経験するもう一人の人物が登場してくる。ここから突然ハラハラドキドキの展開となる。時系列的に、真希の方が先に繰り返し、その後別の人物が日常を繰り返す。このほんの少しの時間のずれで、二人は駆け引きをする。追いかける者と追われる者。さらには、繰り返しという制約条件つき。この部分はわりとすんなり終わっているが、物語としては一番仕掛けが効果的にきいている部分だ。

繰り返す日常の意味を問うような本作。マンネリ化した日常に対して、気分を一新するという意味にもとれるすばらしい作品だ。




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