猫背の虎 動乱始末  


 2013.6.20      猫背の大男が江戸を走る 【猫背の虎 動乱始末】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

時代小説。大地震でてんやわんやの江戸で、同心である寅之助が活躍する。江戸の時代小説と言えば宮部みゆきの作品を思い出す。雰囲気的には似ている。虎之助が人情に厚く、弱きものを助け正義感に満ち溢れている。様々な事件を虎之助とその手下たちが解決するのだが、入り組んだ事件というより、結末がわかるとなんだか少しホッとするような、やさしい物語だ。

大地震により皆が助け合って生きる中で、同心としてどのように町を守っていくのか。他人を助けるが、自分の恋愛には奥手で、さらにはわけありの恋愛である。体がでかいが、背中を丸め猫背で街中を走る姿を想像すると、思わず気持ちが温かくなる。

■ストーリー

地震ですべてを失った板前は憎き男を見て追いかけ、夫の帰りを待つ女は瓦礫の中を妾のもとへ走ってしまう。息子のために危ない読売に手を出す戯作者がいれば、どさくさまぎれに吉原を逃げ出した遊女も現れる。さらに虎之助の恋路に暗雲が立ち込め、尊敬する父にも疑惑の影が…。さあ、どうする!?猫背の虎!恋と人情、謎解きに捕り物。

■感想
同心である虎之助が地震で混乱する町を守るため、臨時のお役目をえる。時代小説としての面白さがあり、宮部みゆき作品の「初ものがたり」に近い面白さだ。江戸を舞台にしているので、似た雰囲気になるのだろう。虎之助に何か特殊な能力があるわけではない。

周りに助けられ、弱気を助け、正義を貫くと、自然と物事が解決していく。現代でいう刑事のような役割の虎之助だが、丁寧な語り口と、他人を尊重する姿が心地良い。大きな体だが、母親や姉にいじられるキャラでもわかるように、本来はおとなしく優しい性格なのだろう。このギャップが良い。

虎之助が扱う事件は様々なものがある。男と女のいさかいと、金に関する事件がほとんどだが、それらを虎之助は鮮やかに解決している。時代小説として男女のいさかいに関しては、ある面で現在以上におおらかではあるが、ある面では非常に厳しい罰が下る。

夫のある身の女性に手を出した場合に、どのような目にあうのか。武士と町人という圧倒的な身分差別がある中で、事件解決に奔走する虎之助というのは、さわやかな雰囲気すらある。大きな体の男が猫背で江戸を奔走する姿がまた微笑ましい。

虎之助の父親絡みの話は非常に興味深い。蔵の米の数が合わないとなると、数が少ないのが普通だが、数が多くて合わない。それを調べる虎之助だが、今は亡き父親が絡んでくる雰囲気がある。尊敬していた父親が不正にかかわっていたのか、それとも何かしらの理由があったのか。父親の名誉を守るため、また、正義を貫くために行動する虎之助。合間に自分の恋愛に関して戸惑う姿というのがまたほほえましい。時代小説として、シリーズ化できるような題材だろう。

大男が猫背になりながら奔走する姿が目に浮かぶようだ。




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