泣かない子供  


 2012.2.18  プライベートが見えてくるエッセイ 【泣かない子供】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

エッセイは、小説では知りえない作者のプライベートな部分が読めるという楽しみがある。本作は書評関係のエッセイはさておき、それ以外の部分では人間味あふれる作者のプライベートが見えてくる。小説作品だけを読んでいるとわからない部分が見えてくる。特に印象的なのは、家族のことを書いたエッセイだ。小言がうるさい父親のことや、仕事を頑張る妹のことなど、作者の小説作品と若干リンクしているように思える部分もある。特に最近読んだ「流しのしたの骨」が家族のことを描いた作品なので、現実の家族をモデルにしたのでは?と思えるようなエッセイもある。こまかな内情は知りえないが、本作に描かれているエッセイを読むかぎりは、幸せな家族なのだろう。

■ストーリー

子供から少女へ、少女から女へ…時を飛び越えて浮かんでは留まる遠近の記憶、あやふやに揺れる季節の中でも変わらぬ周囲へのまなざし。父の小言、しっかり者の妹、本への愛着、かけがえのない風景、せつない想い―。少女の中に棲む女性と女の中に潜む少女性、虚と実のあいだに広がった、こだわりの時間を柔らかにせつなく描いたエッセイ集。

■感想
作者のプライベートな部分を感じることができるエッセイがある。小さいころの思い出も、父親がこう言っていただとか、こんな小言を言っていたというのを読むと、作者も普通の人なのだなぁと思えてくる。あたりまえのことだが、作家というのはどこか人と違った感性を持ち、普通ではないと思ってしまう。そんな勝手な先入観を、しっかりと否定してくれるのが本作だ。厳しい父親に「今日は」という書き出しで作文を書くなと怒られたり、そういった部分が作者の今に繋がっているのか?と思わずにはいられない。

作者の家族のことを書いたエッセイがは、特に印象に残っている。父親が「パプアニューギニアじゃないだから」というヘンテコな比喩をしたり、しっかりと働く妹を家族全員で尊敬したり、作者は家族のこととなると、楽しんで文章を書いているような気がした。特別なオチがあるわけではないが、楽しく文章を書いているというのが伝わってくるので、読んでいて楽しくなる。父親の小言のくだりは、電車の中にも関わらず、思わずふきだしてしまった。まさか、作者のエッセイで声を出して笑うとは思わなかった。

プライベートなエッセイ以外には書評などもある。うすうす感じていたことだが、村上春樹風な雰囲気は、海外の小説をよく読むからそうなったのだろう。書評はほぼ海外小説。はっきり言えば、そのあたりは村上春樹の翻訳作品以外は読んだことがないので、ちんぷんかんぷんだ。ただ、作家だけに、普通の人とは違った目線で批評している。過去に読んだことのある作品を、作者が絶賛していたりすると、もう一度読んでみようかな、なんて気持ちになるから不思議だ。

都の子」よりもプライベート色の強いエッセイ集だ。




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