流しのしたの骨  


 2012.2.14  あたりまえの幸せな家族 【流しのしたの骨】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ごく普通の家族の日常を描いた作品。六人家族で、それぞれに何かしら問題がありながらも、ほのぼのとした日常を過ごす様子を描いた作品。主人公のこと子が、働かず学校にも行かない日々なので、終始のんびりとした生活が描かれている。次女が突然突拍子もないことを言い出したり、長女が離婚すると騒いだり、弟が停学さわぎをおこしたり。なんだかんだとありながら、落ち着いた生活が送られている。両親ともにおおらかな性格だからだろうか、家族すべてが大きな屋根に守られているような安心感がある。嫉妬うずまく恋愛のドロドロや、不倫、浮気なんて話はひとつもない。当たり前の日常というか、家族の暖かさを思い出させる作品だ。

■ストーリー

いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな‘小さな弟’律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりを持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。

■感想
絵に描いたような幸せな家族。たとえ子どもたちに何かしらの問題があったとしても、そこであたふたするような家族ではない。こと子をはじめ、どこか冷静に、そして家族を信用しているだけに落ち着いた対応というのを感じることができる。ものすごく理想的な家族かもしれない。お互いを思いやり、誕生日になれば皆が集まり母親の手料理を食べる。それぞれがプレゼントを持ち寄り祝福する。いまどきこんな家族が存在するのだろうかというほど、幸せな家族だ。とりわけ、厳格な父親がふとした部分で抜けているのが、家族としてバランスがとれている。

主人公のこと子は、高校を卒業してから家事手伝いとなり、気ままな日々を過ごしている。たまにボーイフレンドと遊び、たまに徘徊し、好きなときに映画を見て、好きなときに本を読む。なんてすばらしい生活だとあこがれてしまう。そして、そんな生活をすること子に対して、家族はなんの文句も言わない。こと子自身もまさに無風状態で、なんの問題もない。普通ならばアクセントとして登場する恋愛の問題というのがいっさいない。こと子の安定した精神状態というのが、物語に安心した落ち着きを与えている。

ちょっと変なところがある姉妹たち。ごく当たり前の家族であっても、問題はある。次女のとんでもない発言や、長女の離婚騒ぎなども幸せな家族を崩壊させるものではない。母親がちょっとグチを言うくらいで、家族は出戻りの長女を快く迎えてしまう。このなんともいえない落ち着きというか安定感は、都会で一人暮らしをする者にとっては、実家暮らしの良さを思い出させるだろう。忘れかけた家族の暖かさ。また、家族を持っている人は、こんな幸福な家族になりたいと思うかもしれない。本作を読むと、いつの間にか心が安定し、幸せな気分を味わえるだろう。

この平凡さが読んでいて妙に心地良い。




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