2011.12.11 鋭い観察眼 【都の子】
評価:3
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■ヒトコト感想
作者初のエッセイ集。何かテーマがあるというのではなく、ごく普通の季節にそった日常を描いている。印象的なのは、やはり作家ということで、感受性が鋭いということと、感じたことを独特の言葉で表現するのがうまいということだ。何気ない空気感や、ちょっとした景色など、そこからどうすればその言葉がでてくるのか、凡人では想像できない部分だ。もちろん、作者の感じたことを言葉にしているので、読者はそれをそのまますべて受け入れると違和感をもつことだろう。ただ、自然と作者が見た景色なり風景が、頭の中に浮かんできたような気がした。エッセイを読んで、なんとなくだがその季節の気温を感じてしまう。なんてことないエッセイだが、言葉のチョイスがすばらしい。
■ストーリー
今までに出会った人たち、訪れた場所、印象的だった時間や風景、幼い日の感情…。「記憶」という名の宝石箱から紡ぎだされ、集積された、36篇の短い文章。繊細な五感と、幼子のようにみずみずしい感性が、眩しく、切ない。イギリスの桂冠詩人、アルフレッド・テニスンの同名の詩よりタイトルを採った、著者にとってはじめての、そして“30歳記念”のエッセイ集。
■感想
エッセイというのは、その作者の人となりがうっすらと見えてくるという魅力がある。本作でいえば、作者はもっと気難しく、女っぽさを前面に押し出すようなタイプかと思っていた。本作を読むと、わりと普通なのだなぁという印象が強い。もっと幼いころから遊びまわり、早いうちからドロップアウトし、男をとっかえひっかえする、なんてことはないようだ。どこにでもある普通な日常を、作者の感じたフィルタを通すと、違った感じとなる。ごく普通の作者が、ごく普通の日常をエッセイで描くと、こうも印象的な言葉になるのかと、驚いてしまう。
季節ごとに作者が感じたことがエッセイとして描かれている。幼少期の思い出や、海外生活での出来事など、特別驚くべき事件はない。だれもが普段目にしているような、あたり前のことを作者は独自の感覚で言葉で表現している。吐く息が白くなるような寒い季節も、作者の言葉では違う表現の仕方をする。特に、夏の暑さや、食べ物のおいしさというのが、使い古された表現ではなく、作者の心からの言葉のようで、とても印象に残っている。エッセイを読みながら、この作者はなんて鋭い観察眼をもっているのかと、感心してしまう。
ひとつのエッセイが短いので、サラリと読める。内容が難しいとか、トリックが複雑だとかいうことはない。ただ、読んでいると自分の感受性を試されているようで、あたふたしてしまう。寒い冬の朝に直面しても「ああ、寒いなぁ」で終わってしまう自分。ただ寒いではなく、その寒さの中から思いもよらない言葉をつむぎだすというのは、作者のすばらしさだ。もしかしたら、普段からなにかにつけ、観察しているのだろうか。
趣味、人間観察なんて感じなのだろうか。この力があればこそ、作家となれるのかと、納得してしまう。
エッセイを読むと、作者の人間性がわかる気がする。
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