きのうの世界  


 2011.12.19  人を不安な気持ちにさせる 【きのうの世界】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

どこにでもいる平凡な男がある町で殺された。その事件を中心として、様々な人びとの目線で物語が進んでいく。作者得意のパターンだ。何かが起きているが、その何かがわからないまま、周りの言葉や手がかりだけで読者を不安に陥れる。「ユージニア」や「Q&A」と同じような気持ちになった。街ぐるみで何か秘密を隠しているのか、三本の塔と水路が張り巡らされた街には、どんな秘密があるのか。そして、残された地図の意味は…。関係者が次々と死んでいくのも不安をあおり、否が応でも盛り上がってくる。結末として、秘密を曖昧にぼかすのではなく、すべての出来事に答えを用意している。意外なオチではあるが、人の不安感をくすぐるこの流れは好きだ。

■ストーリー

失踪した男は遠く離れた場所で殺されていた 塔と水路の町にある「水無月橋」。霜の降りるような寒い朝、殺人事件が起こる。バス停に捨てられていた地図に残された赤い矢印は……?

■感想
何が起きているかわからないことほど恐ろしいことはない。ある殺人事件を中心として、人びとは奇妙な推理や体験をする。多数の登場人物たちが、ある平凡な男の事件と関わることとなる。元高校教師は街の成り立ちに対して聞かれ、ある少年は男と偶然会話をし、ある少女は大おばが男とこっそりと話をしていた。殺された男が街を調査していたということと、街には何か大きな秘密があるという記述。秘密を守るためにはどんなことでもするという言葉などから、読者は組織ぐるみの何かを想像してしまう。

読者の想像を超える何かがあるのは確かだ。外堀を埋めるように、ジワジワと周りから答えが示されていく。中盤以降も、物語の全容は見えてこない。そればかりか、より不安感は高まってくる。ついには突然失踪した男を調査にやってきた女までも…。このあたりで、言いようのない恐怖感に襲われてしまう。いったい何が起こっているのか。黒幕的な存在が見えてこないまま、もしかしたら、すべては曖昧のまま終わってしまうのではないか思ってしまうほど、大風呂敷を広げているような気がした。

風呂敷は結末へ近づくにつれ、すべてが綺麗にたたまれていく。それまで広げに広げた伏線の数々が、これでもかというほど回収されていく。事件の真相や、連鎖的に発生した死の理由。塔がこの街に存在する理由から、男がやってきた目的まで。意外な答えであることは間違いない。男が瞬間的に文字を記憶できる特殊体質だということが、ここで活きてくるのだろう。長大で複雑な物語であり、油断すると何がなんだかわからなくなる危険性がある。ただ、「ユージニア」や「Q&A」が好きな人は、間違いなくはまるだろう。

文庫は上下巻と分かれているようだが、一気読みをお勧めしたい。




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