禁じられた楽園  


 2011.9.14  得たいの知れない恐怖 【禁じられた楽園】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

ユージニアQ&Aのように、得たいの知れない恐怖がある。なんだかわからないが、とんでもない状況になりつつあるというのが作品から伝わってくる。様々な登場人物たちが烏山響一という男を中心に、奇妙な出来事を体験する。心霊現象なのか、トリックなのか、正体不明の力によって、決められた方向へと導かれる混乱と、巨大な力への恐怖。それぞれの登場人物たちが体験する奇妙な現象は、恐怖感をあおり、読者を不安な気持ちにさせる。この先いったいどんな結末が待ち受けているのか。オチの内容はさておき、結末へ近づくまでの過程がすばらしい。得たいの知れない、想像を超えた力が暗躍していることをにおわせ、すべてのカギとなる烏山響一とは何者なのか、という気持ちを増幅させている。

■ストーリー

平口捷は、若き天才美術家の烏山響一から招待され、熊野の山奥に作られた巨大な野外美術館を訪れた。そこは、むせかえるような自然と奇妙な芸術作品、そして、得体の知れない“恐怖”に満ちていた。

■感想
謎の美術家である烏山響一。響一を中心として、様々な登場人物たちが、響一の影響を受け、熊野の山奥へと向かうことになる。それぞれの登場人物たちが体験するのは、奇妙で恐ろしい体験だ。それらの説明がほとんどなく、微かに感じさせる響一の影。この、「何が起きているのかわからない」というのは、人を不安にさせ、恐怖を増幅させる効果がある。ユージニアやQ&Aのように、一つの事件を中心にしたのではなく、響一という人物が中心となり、物語は動いていく。

謎の行方不明者や、首のない死体など、何かが起きているのは確かだが、その原因がはっきりとしない。読者は出来事の裏側を想像するが、何が起きているのかまったくわからない。響一目線の記述は結末まぢかまでほとんどなく、あるのは、影響を受けつつある人々のなんとも不安定な心境ばかりだ。本作を読んでいると、自然と物語の世界に入り込み、響一の影響を徐々に受けるような気がしてくる。なんだかわからないことが恐ろしく。人の不安をかきたてるストーリー展開となっている。

巨大な野外美術館内部では、人の想像力に強烈な恐怖を植えつける描写がある。まるで人の体内を思わせるようなカーテンや、突然発生する超常現象など、当たり前の感覚では受け入れられない状況となる。響一が最後まで、良い人物なのか悪い人物なのかわからないまま進み、あいまに登場する奇妙な現象には、明確な仕掛けがあるのか、それとも…。恐怖と興味を極限まで増幅させ、最後にオチをもってくる。正直、オチの流れにはあまり納得はいかないが、はっきりとした結末を示すにはこの流れしかないのだろう。

序盤から中盤にかけての引きの強さは相当なものだ。




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