英雄の書 下  


 2011.3.25  本当の物語はまだ続く? 【英雄の書 下】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

上巻では物語がスタートし、悲惨な現実を目の当たりにした友理子が変わっていくという物語だったが、本作ではいっきに結末まで突っ走っている。中盤までの進み具合では、本作では終わらず続編があるものと思っていた。それほど壮大な物語になりそうな雰囲気だった。それが、突如として結末を迎えることになる。正直、とうとつな印象は拭い去れない。無理矢理終わらせたような印象だ。まるでマンガの打ち切りのように、「さぁ新たな旅は今からスタートする」で終わるような、そんな感じだ。<英雄>や友理子の兄についてのことや、謎に包まれていた無名の地の話もそれなりに解決されてはいるが、どうにも消化不良だ。旅の仲間ができ、これからキリクの体のパーツを探す旅にでるものと思っていただけに、終わったときの驚きは強い。

■ストーリー

<英雄>は兄・大樹を「器」として、刻々と力を取り戻しつつある。“狼”と呼ばれる者たちとともに、<英雄>の追跡を続ける友理子。なぜ兄は<英雄>に囚われてしまったのか。<英雄>が解き放たれると、何が起こるのか? 憎悪と恐怖の支配する世界で、友理子はおどろくべき真実を知る。

■感想
悲劇的な状況へ追い込まれた友理子が旅にでる。それが物語の世界であり、魔物まで登場する。友理子が紋章の力を使って魔物を倒し、従者を引き連れ旅にでる。これはそのままRPGの設定にあるような雰囲気だ。てっきりそのままの流れで進み、本作の続きがあるものと思っていた。それが、蓋を開けてみると、突然終了している。英雄との激しい戦いがあるというのではなく、大きな困難が待ち受けるわけでもない。英雄を倒すという目的が、いつのまにか違うものにすり変わっている。この変わり身の早さは、連載途中にあまりに不評だったため、強引に終わらせたのかとすら思えてくる。

従者である無名僧のソラと辞書のアジュ、そして戦士のアッシュ。それぞれが役割分担されており、しっかりとした仲間ができている。この状態であれば、ブレイブ・ストーリー的に壮大なストーリーを続けていくものと思っていた。行方不明の兄を英雄の呪縛から解き放つというのが大きな目的だが、英雄から世界を救うという壮大なテーマが上巻から感じられた。友理子の兄のとんでもなく不幸な状況というのは心に響いたのだが、それらのフォローがほとんどされないまま、物語は強引に終わっている。上巻で散りばめられた数々の謎はそれなりに明らかにされているが、納得感は少ない。

結末まで読むと、どのような印象を持つだろうか。ある意味ハッピーエンドなのかもしれないし、作中の友理子が感じたのと同じように「だまされた」と感じるかもしれない。心地良い騙され方ではなく、あるゴールを目指していたが、レース中盤で突然「はい、ここで終わりです」と言われたような感覚かもしれない。作中での友理子の嘆きというのは、読者を代弁しているのだろうか。もっとはっきりとした結末がほしい。ありきたりな勧善懲悪でも良いので冒険を最後まで続けてほしいと思ってしまった。

最初からこのオチを想定していたのなら、上巻はもう少しコンパクトにできたような気がした。




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