ブレイブ・ストーリー 上 宮部みゆき


2009.10.27  ただの冒険ファンタジーではない 【ブレイブ・ストーリー 上】

                     
■ヒトコト感想
かなり強烈だ。映画化されているということもあり、ちょっとした冒険ものかと思っていた。しかし、蓋を開けてみると、中盤までしっかりと亘の境遇が描かれている。とても子供向けの冒険ものがたりとはいえない流れ。両親の離婚話を全面に押し出してくるあたり、とても親子そろってごらんくださいと言える雰囲気ではない。何の理由もなしに、勇者が魔王を退治に向かう冒険物語よりは何倍も良いと思うが、まさかこのような展開になっているとは思わなかった。上巻である本作では、冒険がスタートするところで終わっている。謎の転校生や、広大な幻界。ここから始まる物語としては申し分ないと思う。冒険に出る理由が理由だけに、軽いファンタジー小説では終わらない作品だ。

■ストーリー

小学五年生の亘は、成績はそこそこで、テレビゲームが好きな男の子。大きな団地に住み、ともに新設校に通う親友のカッちゃんがいる。街では、建設途中のビルに幽霊が出るという噂が広がっていた。そんなある日、帰宅した亘に、父は「この家を出てゆく」という意外な言葉をぶつける。不意に持ち上がった両親の離婚話。これまでの平穏な毎日を取り戻すべく、亘はビルの扉から、広大な異世界―幻界へと旅立った!

■感想
両親の離婚をどうにかやめさせるために冒険へと出る亘。かなりディープだ。上巻である本作では、大半を亘の境遇の説明にさかれている。必然的に両親のいざこざの描写が多くなる。はっきりいって、この物語のトーンはそのまんま重松清だ。家庭の問題を描く作品ではないはずなのに、両親の離婚話に苦しむ小学生など、宮部みゆきっぽくはない。ファンタジー小説ということを忘れ、亘の両親の身勝手さ、そして、その周りの大人たちの勝手な行動にいら立ちさえ覚えてしまった。冒険へ出発する前に、すでにこれほどまでディープな世界が出来上がってると、のめりこまざるお得ない。

謎の幻界も、ただの異世界ではない。なんだかいろいろと秘密がありそうで、現世とのリンクもありそうだ。亘よりも一足先に冒険へと旅立った謎の転校生。これまたディープな私生活が感じられ、冒険へ出るためにはそれなりのしっかりとした理由があると表現している。確かに普通に考えると、子供が世界平和のために自分を犠牲にし、平和な家庭から冒険の世界に向かうはずがない。世界の命運がかかっていると、いち小学生に言うのが間違っている。そういった意味で言うと、本作は亘が冒険へ出る意味をしっかりと示している。単純に世界を平和にだとか、魔王を倒すや、友達を助けるなんていう、曖昧な理由ではない。亘には切実な理由があるのだ。

ファンタジーながら、なかなか冒険がスタートしない。上巻の終わりになってやっと幻界へと向い、冒険がスタートする。もしかしたら、中巻からはピンチがありながらも、仲間に助けられ、明るく楽しい冒険物語になるのかもしれない。現世と幻界とのリンクや、先に冒険へ出た転校生など、すんなりと終わるようには思えないのだが、冒険物語としての楽しさもしっかりと盛り込まれていることだろう。作者がゲーム好きということもあり、しっかりとRPGの基本要素がおさえられている。人によってはちょっとしたドラクエ的雰囲気も感じるかもしれない。冒険のスタートに関しては誰が読んでもまっとうなRPGだと感じることだろう。

中巻以降どのようになっていくのか、気になるところだ。

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