ばんば憑き 宮部みゆき


2012.2.15  時代小説のスピンオフ 【ばんば憑き】

                     
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■ヒトコト感想

作者の時代小説の外伝的短編集。「あんじゅう」や「日暮らし」を読んでいれば必ず楽しめるだろう。読んでいなくとも、妖しにまつわる不思議な話を作者が描くと、不思議な魅力に引き付けられてしまう。登場キャラクターとしては、すでに別作品でおなじみなので、すんなり入り込める。さらには、あの物語の裏には、実はこんな出来事があったのだという外伝として、本編を補完するようなものまである。なにかしら奇妙な妖怪のたぐいが登場し、引っ掻き回すのではなく、物語の根本に隠れた人の本性や浅ましさを妖怪に投影したような作品が多い。時代小説が苦手な人には辛いかもしれないが、読み始めれば時代小説ということを忘れてしまうほどスラスラと読める作品だ。

■ストーリー

湯治旅の帰途、若夫婦が雨で足止めになった老女との相部屋を引き受けた。不機嫌な若妻をよそに、世話を焼く婿養子の夫に老女が語り出したのは、五十年前の忌まわしい出来事だった…。表題作「ばんば憑き」のほか、『日暮らし』の政五郎親分とおでこが謎を解き明かす「お文の影」、『あんじゅう』の青野利一郎と悪童三人組が奮闘する「討債鬼」など、宮部みゆきの江戸物を縦断する傑作全六編。

■感想
「ばんば憑き」は表題作ということもあり、奥深い物語となっている。不思議な出来事そのものより、そこに行き着くまでの物語に恐ろしさを感じてしまう。老女と相部屋、不機嫌な若妻、そして老女が話す昔話。ばんば憑きという恐ろしい儀式の話と、わがまま放題の若妻がどのように関係していくのかと中盤まではまったく予想がつかなかった。それが後半になると、夫が理解する夫婦円満というのが、なんとなくだが、老女の話によって強調されたような気がした。本作の短編集の中では、一番不思議な恐ろしさのある作品だ。

「お文の影」は妖しよりも、むしろ政五郎親分とおでこが登場してきたことに驚いた。最初は何の気なしに読んでいたが、どこかで読んだ設定だと思い、頭の中で考えをめぐらせると「日暮らし」の主要キャラクターだと気づいた。なんとなくだが、久しぶりに会う同級生のように、なつかしさを感じてしまった。キャラクターがしっかりと確立されていると、頭の中ではそのキャラクターたちが縦横無尽に暴れまわる。おでこのなんでも記憶する能力などは、この物語には必須ではないが、おでこのおでこらしさを発揮できる唯一の場面なので必要なのだろう。

「討債鬼」は最近読んだ「あんじゅう」に収録された印象深い物語の外伝なので、ことのほかインパクトがあった。特に青野利一郎と悪童三人組の関係や、あんじゅうでは明らかとならなかった行念坊と利一郎の繋がりなど、なぜ?と思う部分が補完されていると心地良い。討債鬼という、家が残した債権を清算するために生まれてきた妖し。この設定もすばらしければ、利一郎たちの活躍もすばらしい。あんじゅうでは破戒僧として物語の語り部だった行念坊が、今回は妖しを仕掛ける側となる。オーソドックスなミステリー風であり、因果応報的な結末となるのもなんだかすっきりとしてよかった。

「あんじゅう」や「日暮らし」を先に読んだ上で本作を読めばより楽しめることだろう。



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