あんじゅう 宮部みゆき


2012.2.7  予想外のほのぼの感 【あんじゅう】

                     
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■ヒトコト感想

前作「おそろし」は怖さが段々とグレードアップし、怨霊というか悪霊というか、その手の話がまんさいだった。それに比べると、本作はかなりマイルドにほのぼのとしている。中には恐ろしい恨みつらみの話もあるが、前作とは比べ物にならないライトさだ。前作どうよう、ただ話を聞くだけなのだが、そこにはおちかの心境の変化もプラスされている。奇妙な現象の答えまで、すべて話の中に登場するので、ミステリー的な奇妙さはない。ただ、読み終わると、どこかほのぼのとする作品ばかりだ。特に「暗獣」は表題作にもなっているように、怨霊かと思いきや、実はそこには別の真実がある。それまでの出来事とうまく絡めることで、物語をより奥深いものにしている。

■ストーリー

さあ、おはなしを続けましょう。三島屋の行儀見習い、おちかのもとにやってくるお客さまは、みんな胸の内に「不思議」をしまっているのです。ほっこり温かく、ちょっと奇妙で、ぞおっと怖い、百物語のはじまり、はじまり。

■感想
連作短編集である本作。前作とは違い、どこかほのぼのとし、未来に明るい希望が持てる作品ばかりだ。「逃げ水」では、辛い境遇にあった丁稚が、妖しとの関わりにより変わっていく様が描かれている。単純に奇妙な話ということで終わるのではなく、そこには裏があり、心優しい物語に気持ちがほっこりしてしまう。花瓶の水や、水がめの水が消えてしまう現象を、悪霊のしわざとするのではなく、心の持ちようによって、良い方向へと動かしていく。妖しと人間の心温まる物語だ。

「藪から千本」は、このシリーズに新たなキャラクターが登場する作品だ。姑の怨霊だと思われる出来事が起きる。この奇妙な現象の原因を探るというのが物語りの発端だが、現実的な答えを示すよりも、痘痕という病気の衝撃度がすさまじい。現代に置き換えると、アトピーとかそんなものになるのだろうか。とりわけ美女に発症しやすいというのは、なんだか皮肉でしかない。そんな苦しい痘痕をわずらいながらも、おちかの仲間に加わる”お勝”の存在が、今後の物語に大きな影響を及ぼしそうだ。

表題作でもある「暗獣」は、まさに本作を象徴するような話だ。怨霊がでるといういわくつきの屋敷。そこを火元とする火事が発生する。誰もが恐怖し、寄りつかない屋敷にはどのような悪霊が住みついているのか…。そこに住んでいた老夫婦の言葉により、すべてが明らかになる。読者には悪霊の存在をにおわせつつも、実はそこには別の理由が存在する。いかにも作者らしいうまさを感じてしまう。前作の流れからすると、身の毛もよだつような悪霊の存在をイメージしただけに、イメージの落差がすばらしい。意表をつくほのぼのとした作品となっている。

前作のイメージとは180度変わったと言っても過言ではない。



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