繋がれた明日 真保祐一


2010.12.3  人の怒りは相対的だ 【繋がれた明日】

                     
■ヒトコト感想
一つの取り返しのつかない出来事から、人の人生は大きく変わっていく。ちょっとしたはずみで起こしてしまった殺人事件によって服役し、仮釈放された中道におとずれる様々な出来事。犯罪者はたとえ罪を償ったとしても、その罪は最後までつきまとう。犯罪者の周りにまで避けようのない厳しい現実が迫るあたりは、東野圭吾手紙を思わす流れだ。中道が自分を落としいれようとする何者かを探すあたりは、作者奇跡の人を連想させる。どちらも強烈なインパクトを残す作品だが、本作は物語にのめり込みすぎて、中道に変なイラ立ちすら感じてしまった。真っ当な道へ進もうとすれば、余計なことには目を瞑り、見てみぬふりをするのが一番良いはずだがそうはならない。取り返しのつかないことは、本当にいつまでたっても取り返しはつかない。

■ストーリー

あの夏の夜のことは忘れられない。挑発され、怒りに駆られてナイフを握った。そして一人の命を奪ってしまった。少年刑務所から仮釈放された、中道隆太。彼は人間味溢れる保護司に見守られ、不器用ながらも新たな道を歩みだしていた。その矢先、殺人の罪を告発するビラが撒かれた。誰が?何のために?真相を求め隆太は孤独な旅を始めたのだが―。

■感想
物語の登場人物にイラ立ちを感じることはなかなかない。現実感がなかったり、あまりに想像を絶するキャラの場合は、感情移入できない。本作では、思わず中道を見守る人として物語を読んでしまった。取り返しのつかない事件を起こし、苦悩しながら罪を償う。その後、堀の外の世界では、誹謗中傷が待っている。これは犯罪を犯したものの宿命といえるだろう。ただ、本人が更生しようとマジメに働いているところに傷をほじくり返すようなことには怒りを感じてしまう。犯罪者を恐れる気持ちもわかるが、更生を邪魔する人には怒りを感じてしまった。なんのためにそこまでするのかという疑問ばかりがつのった。

中道の行動にもイラ立ちを感じた。例え周りから誹謗中傷されようとも、理解してくれる仲間や保護師がいるのなら、そのまま平穏に暮らすべきだろう。それをせず、いつまでも昔のことにこだわり、誹謗中傷のビラをまいた犯人を探し出そうとする。そんなことは警察にまかせて、何も問題を起こすべきではないと終始思いながら読んでいた。仮釈放中にもかかわらず、誤解されるような行動をとり、また、被害者の家族から嵌められたりもする。このあたり、知らず知らずのうちに興奮し、物語にどっぷりと浸かりきっていた。

一つの過ちを犯した者がどうなっていくのか。本作を読み、まず、人生とはどうなるかわからないと感じた。一つの過ちですべてが泡と消え去り、もう元通りに戻すことはできない。怖さと共に、儚さと一寸先は闇だということがわかった。さらには、どんなに罪を償ったとしても、そこには償いきれない罪があるということ。人の怒りというのは相対的なものだ。自分が苦しむ中、その苦しみを生み出した張本人が平和に暮らしていたとすると、怒りが湧いてくるのも当然だろう。

なんだか人のリアルな心境と、犯罪を犯すということがどのような影響を及ぼすのか、しっかりと伝わってきた。



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