手紙 東野圭吾


2006.10.29 現実感が伴う感動作 【手紙】

                     
■ヒトコト感想
犯罪者を兄に持つ男の苦悩。貧しい境遇から這い上がろうとする姿、雰囲気はほとんど白夜行の主人公と同じように感じてしまった。本作を原作とした映画の主演も白夜行と同じ山田孝之であるためにどうしても同じようなイメージで読んでしまう。中盤にかけてはまさに白夜行と同様なのだが、後半から一気に手紙独特の雰囲気となってくる。殺人者の兄を持つ弟の決断。まさか最後はそうなるとは思わなかった。お涙頂戴のありきたりな家族愛に走るかと思っていたが、中身は非常に現実的で綺麗ごとでは済まされない事実というものを感じてしまった。身内に犯罪者がいるという事実がどれだけ重くのしかかるのか改めてその重みを考えさせられる作品だ。

■ストーリー

強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き切り、感動を呼んだ不朽の名作。

■感想
獄中の兄から月一で送られてくる手紙。そして一人残された弟が苦労しながらも成長し、最後には兄の出所を待ち望み兄弟仲良く生活するというものをイメージしていた。その際に兄が犯罪者という影響を受けるが、それに負けずに弟はたくましく成長していく。読者はそれを読み、勇気付けられ、最後はお涙頂戴のハッピーエンドになる。そんな結末さえ予想していた。

しかし、現実は大きく異なっていた。中盤までは苦労しながらもたくましく生き、兄に対する思いも和らいでいき流れ的にはまさに予想通りの展開だった。犯罪者の身内だから差別される。そんな場面に自分が出合ったこともなければ周りにも存在しない。イメージはわかないのだが、想像するよりもその現実に直面した場合は恐らく、僕自身も作品の中の人々のようにどこかよそよそしく、そして避けてしまうのだろう。

そんな差別にも負けずたった一人の兄弟の絆を大事にするのかと思いきや、物語は大きく展開していく。まさかその選択肢にいきつくとは思わなかった。考えてみれば普通にたどり着く結論なのかもしれないが、虚構の中の作品でその流れに行くとは思わなかった。衝撃的な展開から後味が悪く終わると思いきや、最後にはそれなりのフォローがあり、後味もよく感動する作品に仕上がっている。

ありきたりな展開のお涙頂戴物語であれば、それほど感動はしなかっただろう。しかし最後は予想外の展開にもかかわらず兄弟の絆が示される部分もあり、
一旦抑えられた感情がまた盛り上がるようで、感動も倍増してしまった。綺麗ごとではなく現実を見据えた作品という印象を受けた。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp