2008.11.1 すべてのお膳立てはそろった 【終戦のローレライ3】
■ヒトコト感想
歴史的事実を創作に絡めることで、リアリティを持たせている。広島、長崎に落とされた原爆。さらなる被害が日本にはもたらされるはずだった…。荒唐無稽だが、本作の流れからいうと、真実味をおびてくるから不思議だ。すべてを裏で糸引く浅倉大佐が変わったきっかけ。人間をやめるような強烈な出来事が本作には描かれている。今までの1、2と比べるとローレライの活躍は少ない。ラストへとつながるお膳立てをしているようだ。役者はすべてそろい、消えていく者もいる。なんだか最後の総力戦にむけ、決してハッピーエンドでは終わらない雰囲気が漂っている。すでに満身創痍の伊507がどこまでいけるのか、それはラストですべてが明らかとなる。
■ストーリー
その日、広島は核の業火に包まれた。人類史上類を見ない大量殺戮の閃光が、日本に定められた敗北の道を歩ませ、「国家としての切腹」を目論む浅倉大佐の計画を加速させる。彼が望む「あるべき終戦の形」とは?その凄惨な真実が語られる時、伊507乗員たちは言葉を失い、そして決断を迫られた。
■感想
原爆により壊滅的な打撃を受ける日本。それすらも予測し、その後の戦局をにらみ、次の手をうっていた浅倉大佐。この非常に切れる男である浅倉がなぜ今の人格になったのか、将来は海軍大臣とまで言われた男が変性したルーツも描かれている本作。人間をやめるほどの衝撃的出来事。これは読んでいても衝撃的であり、戦時中とはいえ、まったく受け入れることができない部分だ。そこまでの経験が浅倉を変えたというのはかなり説得力があり、恐ろしさを感じた。
伊507内部で、新たな目標のために一体となった乗組員たち。そこで新たな異物として登場する土谷たち。ローレライという作品がただの潜水艦ものではなく、国や民族をテーマとしていることがフリッツや土谷を見ても良く分かる。それぞれが自分の安住の地を探しながら、見つけたフリッツたちと、見つけられなかった土谷。ローレライをめぐる激しい戦いの中でも、この二つの対比だけはなんだかずいぶんとむなしく、そして悲しいもののように思えてしまった。
”終戦”へと向かうローレライ。どのような終わり方をするにしても、総力戦となり、多大な犠牲がでることだろう。映画版がこれほど重い作品だった印象はない。日本の命運をただ一隻の潜水艦がにぎるというありえない展開。ボロボロの潜水艦でこれからさらに敵の包囲網へと向かう伊507には、だれもが容易に予想できる苦難が待ち構えている。読んでいてつらくなるのは分かっているが、続きが気になってしまう。ある程度予定調和的な流れになるのは間違いないだろう。まさか、日本が滅ぶ結末はない。そこに至るまでの経緯がどうなるのか、それを読むつもりだ。
ラストへ、すべての段取りがそろったという感じだろうか。
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