2008.11.12 壮大な物語の終焉 【終戦のローレライ4】
■ヒトコト感想
「伊507」が沈むのは、すでに規定路線であり、それが覆らないのはわかっていた。しかし、心のどこかで、乗組員たち皆が無事生還するという結末を想像していたのだが、結局それがおとづれることはなかった。ラストへ向かうにあたり、激しい戦いと、すべてに決着をつけるためにはしょうがないことなのだろう。これほど長大で、キャラクター一人ひとりにしっかりと性格付けをしていただけに、すべてが無に帰ってしまうのは非常に惜しい気がした。予定通りといえばそうなのだろう。裏切られる展開もなく、終結へ向かう場面ではほんの少しだが、泣けてきたりもした。かすかな希望の種は残しつつも、すべてを締めるにはこの終わり方がベストだったのだろうか。
■ストーリー
「ローレライは、あなたが望む終戦のためには歌わない」あらゆる絶望と悲憤を乗り越え、伊507は最後の戦闘へ赴く。第三の原子爆弾投下を阻止せよ。孤立無援の状況下、乗員たちはその一戦にすべてを賭けた。そこに守るべき未来があると信じて。今、くり返す混迷の時代に捧げる「終戦」の祈り。畢生の大作、完結。
■感想
文庫版として全4巻。かなり長大で、気合をいれなければ途中でダレてしまう可能性がある。本作も最終巻ということで、今までの後始末と、その後のエピローグ的なものにかなりのページを割いている。日本を守るという壮大な演説をぶちあげた浅倉大佐の最後にしても、ずいぶんとあっさりしているように感じ、そのほかの主要キャラクターにしても、もう少し生き残っても良いのではないかと、未練がましく思ってしまった。これほど長い物語でキャラクターたちを語られると、それぞれに思い入れがでてくるのは当然だろう。せめてフリッツくらいには、何か大きな活躍を最後にしてもらいたかった。
本作はエピローグにずいぶんとページを割いている。終戦後の日本というものに、何か意味合いを持たせたかったのだろう。生き残ったものたちがどのような生活をおくり、どのような家庭を築いていくのか。すべてが終わったあと、「伊507」の生き残りが、現在の日本の姿を心配している姿を見ると、なんだか、奇妙な感じがした。現実と虚構がごちゃ混ぜになるような気分だろうか。このことにより、まるで本当に「伊507」が存在し、日本に第三の原子爆弾が投下されかかったかのように思えてきた。
ローレライという長大な作品は、最初に映画版として見たときの印象と、1巻を読んだときの印象はずいぶんと違っていた。原作ならではの緻密さと濃厚な男くさい雰囲気。これこそ作者の得意分野かと思いながら読んでいた。巻を重ねていくにつれて、物語の厚みは増してきたが、それに比例するようにかなり読み疲れというのがでてきた。一つの物語として、これほど長くなると、読むほうのテンションを保つのがかなり大変であり、途中で諦めてしまう可能性すらある。本を読み慣れていなければ、間違いなく投げ出していただろう。
そうはいっても、こうやって最後まで読み込むことができたのは、作者の読ませる力なのだろう。映画版を生み出すのに、どれほど苦労したのかも、おぼろげながらだが、理解できた。もし、もう一度DVDでローレライを見たとしたら、また、違った印象を持つかもしれない。
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