楽園 上 宮部みゆき


2010.5.9  模倣犯の続編としては… 【楽園 上】

                     
■ヒトコト感想
模倣犯から9年後を描いた本作。模倣犯の感覚のまま読むと多少違和感をもつ可能性がある。不慮の事故でこの世を去った子供に超能力があった。奇妙な絵だけがその証拠となる。模倣犯の事件と絡めているので繋がりを感じるのだが、まったく別物といってもいいだろう。小学生離れしたすばらしい絵を書く少年が、突然退行した絵を描く。このサイコメトラー的な不思議さによって物語は成り立ているが、事件そのものとしては特別印象に残るようなものではない。不思議な能力を持っていた少年というのも、すでに故人ということに意味があるのだろう。おそらく不思議な能力というオチはないと思うが、どれだけ納得できるようなカラクリを示してくれるのだろうか。

■ストーリー

未曾有の連続誘拐殺人事件(「模倣犯」事件)から9年。取材者として肉薄した前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そこに舞い込んだ、女性からの奇妙な依頼。12歳で亡くした息子、等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたい、というのだ。かくして滋子の眼前に、16年前の少女殺人事件の光景が立ち現れた。

■感想
模倣犯を読んでいなければ、あの独特な恐怖感を味わうことができないだろう。事故死した少年が書き残した絵。そこに描かれていた模倣犯の事件を連想させる奇妙な絵。その描写を読んだときは、かなり鳥肌が立った。事件は解決したはずなのに、事件に束縛されている滋子にとっては、決して見て見ぬフリはできないことなのだろう。少年が果たして超能力で絵を描いたのか、それとも何かしらの現実的理由があったのか、それを探ることが本作のメインであるが、模倣犯の事件から抜け出すということも、一つのテーマとなっている。

物語のきっかけとなるのが、息子の絵を持ってきた母親の行動にある。どこか間の抜けた母親の描写からして、何か大きな鍵を握っているような香りがただよってくる。もともと本作では、ミステリーらしい事件というのはない。事件の周辺を探ることによって、少年の能力が本物かどうかを見極めることをメインとしている。表面しか現れない事件の裏側を探っていくうちに、真実が明らかとなる。作者お得意の、それぞれのキャラクターに焦点を当て物語は劇的に変化していくのだろう。

本作では本当に超能力なのかをメインとしているだけに、衝撃的な事実はでてきそうもない。模倣犯で感じた、頭に血が上るような怒りを感じることもないだろう。キャラクターの個性にしても、少し弱いような気がした。模倣犯の続編的扱いを受けるとどうしてもハードルは高くなる。模倣犯と切り離して読めばすばらしい作品だということはわかるが、どうしても比較してしまう。そうなると必然的に、物語に対する熱中度の違いから飽きてくる危険性がある。下巻で衝撃的な展開があることを祈るばかりだ。

本作を読む前に模倣犯は読むべきだが、模倣犯レベルを期待すべきではない。

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