模倣犯3 宮部みゆき


2010.3.4  1巻の真相があきらかに 【模倣犯3】

                     
■ヒトコト感想
1巻である程度事件の全容は見えていた。2巻からは犯人側の視点で、どのようにして事件が引き起こされたのか、誰が黒幕なのかを語っている。そして本作では1巻のラストで登場した結末が、どのような経緯で起こったのかを語っている。ここまでで物語のポイントがはっきりしてきた。事件の鍵をにぎるピースの本性も明らかとなる。本作では栗橋と和明がなぜ転落炎上した車に乗っていたか。不自然な状況ではあるが、そこに至るまでの情景がはっきりとわかってきた。犯人側からの視点であり、栗橋に悪の魅力がないことは前巻でわかっていた。ピースであっても、その魅力は薄れてきた。これからは、もはやピースが逮捕される手がかりがない状態で、どのようにしてピースにまでたどり着くのか、それがメインなのかもしれない。

■ストーリー

群馬県の山道から練馬ナンバーの車が転落炎上。二人の若い男が死亡し、トランクから変死体が見つかった。死亡したのは、栗橋浩美と高井和明。二人は幼なじみだった。この若者たちが真犯人なのか、全国の注目が集まった。家宅捜索の結果、栗橋の部屋から右腕の欠けた遺骨が発見され、臨時ニュースは「容疑者判明」を伝えた―。だが、本当に「犯人」はこの二人で、事件は終結したのだろうか。

■感想
衝撃的事件の結末を語る本作。事件を面白半分にひっかきまわした栗橋とピースは、自業自得とも言える数々の行動の結果、事態は思わぬ方向へと動き出す。栗橋と和明が事故に合うという偶然の産物によって、二人に罪をかぶせることに成功したピース。そこに至るまで、栗橋の苦悩と和明の迷いが語られている本作。犯人側からの視点によって、事件の理不尽さや、関わる人々の苦しみや悲しみが描かれている。被害者にしても、ただのサラリーマンと言いながら、実はそこに家族がいる。そんな家族までもしっかりと描写している本作は、被害者に対して哀れむ気持ちと、実行犯である栗橋とピースの異常さを際立たせる効果がある。

栗橋とピースと和明以外にも、樋口めぐみが登場する。事件の第一発見者であり、過去のある事件の被害者でもある真一と樋口めぐみの関係が、本作の事件にどの程度関係してくるのか。今の時点ではまったく繋がりがないように思われるが、残り2巻で大きく関わりがでてくるのだろう。樋口めぐみにしても、栗橋やピースにしても、その思考原理は到底理解できるものではない。本作のラストでは、栗橋の心が描写されていたが、事件を起こしたことよりも、母親との関係に焦点が当てられていた。樋口めぐみや栗橋に共通している、どこか他人を省みない異常さというのは、虚構の中の世界とわかっていれば安心して読めるが、現実に存在していそうで恐ろしくなる。

悪の権化ともいうべきピースの内面描写が初めて登場したのも本作だ。今まで、焦りや嫉みや怒りは栗橋が表現し、ピースは常に冷静沈着で的確な指示をだすというイメージだった。それが和明の登場により、栗橋が壊れ、ピースの内面があらわとなる。カリスマ的悪の魅力があったピースも、多少の混乱と、穴だらけのシナリオでは、そのカリスマ性も薄れてしまっている。今後は、おそらく完璧と思われたピースのシナリオのほんの小さな穴を刑事やライターが探しだし、ピースへたどり着くことだろう。そこに至るまでの過程で、どのような出来事が起こるのか。ピースを追い詰めるのは誰なのか、ピースの結末は…。楽しみで仕方がない。

本作は、いわば1巻の補完的部分だ。しかし、本作があることで、物語に深みがでている。

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