模倣犯2 宮部みゆき


2010.2.24  犯人の実像があきらかとなる 【模倣犯2】

                     
■ヒトコト感想
1巻は犯人像がはっきりとはせず、不気味さを漂わせていた。知能が高く、被害者家族をあざ笑うかのような行動の数々。本作では、そんな犯人たちの生い立ちから、事件発生にいたるまでを描いている。1巻で感じた不気味さは、本作を読むことである程度緩和されてしまう。犯人の一人である栗橋浩実の人物像が明らかになってくるにつれて、不気味さよりもイラだちの方が強くなってきた。得体の知れない恐怖と、目的の分からない犯人たちの行動には興味をそそられてしまうが、それらが犯人たちの気まぐれと分かった瞬間に、どこか冷めてしまったのかもしれない。しかし、まだピースとうい正体不明の人物がおり、今後、ピースを中心として物語が動いていくのは確実なのだろう。

■ストーリー

鞠子の遺体が発見されたのは、「犯人」がHBSテレビに通報したからだった。自らの犯行を誇るような異常な手口に、日本国中は騒然とする。墨東署では合同特捜本部を設置し、前科者リストを洗っていた。一方、ルポライターの前畑滋子は、右腕の第一発見者であり、家族を惨殺された過去を負う高校生・塚田真一を追い掛けはじめた―。事件は周囲の者たちを巻込みながら暗転していく。

■感想
一連の事件の犯人たちの行動を描く本作。1巻で感じられた不気味さの理由付けがされている。神出鬼没で、愉快犯的な印象を受けた1巻に答えるように、本作は犯行の動機から、そのカラクリまでをしっかりと描いている。そればかりか、栗橋浩実に関しては、生い立ちから現在に至るまでを描き、どのような心理状態なのかまで克明に表現されている。ただ、この栗橋浩実という人物に悪の魅力がまったくない。ピースのように悪のカリスマ的雰囲気があればよいのだが、ただの悪の手下のような印象しかなかった。あれだけの大事件の犯人の一人として、ふさわしいかどうか少し微妙に感じてしまった。

本作は徹底して栗橋浩実関連で攻めている。被害者たちがどのような心境で栗橋に近づいたのか。栗橋が最初に犯した事件や、生活環境など。新たなキャラクターが登場し、より深みを増しているが、なんと言っても本作ではピースの存在が大きいのだろう。本作ではまだそれほど描写されていないが、ピースがすべての黒幕であることは間違いない。おそらく今後、ピースの内面描写を含めて、犯行にいたる動機なども細かく描かれることだろう。1巻での不気味さは、すべてピースがかもし出していたといっても過言ではないだろう。

1巻のラストで起こった出来事にまではまだ到達していない本作。犯人側からの視点で同じ事件を追っているが、ミステリアスなベールがはがれるとなんだかテンションが一時的に下がったような感じになってしまう。もしかしたら、栗橋には家庭環境や、性格などやむおえない理由があるという流れなのだろうか。栗橋がピースと出会わなかったら、また違っていたのだろうか。濃密な物語だというのはわかるが、犯人側を詳細に説明されるとそこに魅力があるかないかで、随分とその後の展開が変わってくると思う。かろうじて、ピースにその魅力があるだけに、まだ助かっている。

この事件だけでは、テンションがもたない。残り3巻で劇的な事件がまた起きるのだろうか?

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