神の火 上 高村薫


2009.1.23  開発者を狙え 【神の火 上】

                     
■ヒトコト感想
原発をテロに使うというのはさまざまな小説で描かれていることなのだろう。天空の蜂もそうだった。それら既存の作品を読んだときには思わなかったことを、本作は思い起こさせた。原発テロにはまず原発システムを理解しなければならない。それならば、システムを作った技術者を手に入れればよいということだ。よく考えれば、国家機密のシステムであっても、それを作った技術者は存在する。システムを技術で破ることばかり考えがちだが、その大元を手に入れれば…。その部分はすばらしいと思うが、少し古臭さと、スパイものとしての面白さを感じることができなかった。平穏な日々を過ごす元スパイ。小難しい技術論を読みながらでは、スパイの痛快さをまったく感じることができなかった。

■ストーリー

原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己れをスパイに仕立てた男と再会した時から、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プラン〈トロイ計画〉を巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった…。

■感想
作者が得意な小難しい技術論の中でも、今回はわりとすっきり入り込むことができた。なじみのある技術と、物語のキーとなる原発シミュレーションの部分では、はっきりと頭の中に映像を思い描くことができた。そのため、技術的な難しさはそれほどない代わりに、変な男くささを感じてしまった。前からうすうすとは感じていたが、作者の作品ではかならず男×男のようなパターンがある。それも決まって三十代後半と若者という取り合わせだ。それがいかにもという感じなので、読んでいて鳥肌がたってきた。難しい技術論で煙に巻かれることが無いだけに、よりそれが際立っているのだろうか。

原発をテロに利用するにあたって、開発者を狙う。それが元スパイであれば…。本作は上巻ということもあり、まだまだ大きな変化前の序章に過ぎないのだろう。物語的にはなんだか、もう終わりが近づいているようにすら思えてくる。主要メンバーが出つくし、さまざまな利害関係から身動きが取れない大国。ソビエトのスパイと言われて、はいそうですか、となかなか納得できない。スパイならではの騙し騙されというよりは、元スパイがどのようにして平穏な暮らしを取り戻せるかを描いているようだ。

主人公である島田がひたすら良のことを気にする理由が不明確だ。それは上記の男×男を匂わせたいがためなのだろうか。何か大きな理由が隠されているのだろうか。すでに出自や人間関係など、ある程度出つくした本作では、今後どのような手を使って、下巻を面白くするのだろうか。それにしても、作者の綿密な調査には驚かされる。UNIX関係の記述にいたっては、まったく間違いがなく、すべて整合性が取れている。まったくの門外漢がこれを読んでもなんのことだかさっぱりわからないだろうが、知っている者が読むと面白さが理解できる。作者は玄人ばかりをターゲットにしているのだろう。

下巻のテンションがどのようなものか、それが気になる。

 下巻へ


おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp