玉蘭 桐野夏生


2010.1.9  物語のつながりが希薄だ 【玉蘭】

                     
■ヒトコト感想
光源の続編ということだったが、まったく別物だ。次々と登場する人物が中心となり物語が進んでいく方式は一緒なのかもしれないが、ストーリー的な繋がりは一切ない。さらには、ひとつひとつの物語は面白いのだが、結局何が言いたかったのかよくわからなかった。物語としても、光源が映画製作という一本スジが通っていたのに比べて、まったくそういったものがなかった。それぞれ魅力的なキャラクターが次々と勝手に動き出したような感じで、物語に収集がついていない。浪子や質の上海での生活や、有子と行生の関係など、非常に面白いのだが、それぞれが繋がりがなく、ただ漠然と物語が進んでいるだけのように感じられた。無理矢理のラストもとってつけたようで微妙だった。

■ストーリー

ここではないどこかへ…。東京の日常に疲れ果てた有子は、編集者の仕事も恋人も捨てて上海留学を選ぶ。だが、心の空洞は埋まらない。そんな彼女のもとに、大伯父の幽霊が現れ、有子は、70年前、彼が上海で書き残した日記をひもとく。玉蘭の香りが現在と過去を結び、有子の何かが壊れ、何かが生れてくる…。

■感想
本来なら主人公である有子がらみの物語はいまいち印象に残っていない。本作を読み終わって、まず一番に思ったのは浪子と質の生活と、広東や上海での生活描写だった。物語を牽引するはずの有子に降りかかる様々な出来事は繋がりがあるようで、繋がっていない。謎的なものを提示しても、それに対しての明確な解決というのはなされない。そのため、それぞれの物語がなんだかぶつ切りにされ、チグハグな印象をうけた。結局、物語全体としての核がないように感じられた。

浪子と質がらみの物語はとても興味深かった。二人の決して明るいとはいえない未来に対して、どのように二人が進んでいくのか。有子が留学した上海の物語よりも、質と浪子が新婚生活を営んだ上海の方が、上海という場所の熱を感じられ、時代の息吹も目に見えるようだった。どこかいびつで歪んだ恋愛感情を持っている浪子や有子であっても、上海という土地では、全てを覆いつくすような強烈な何かがあるような気がした。それぞれ独立した物語として読むと、とても優れているが、全体としての繋がりがよくわからなかった。

無理矢理繋がりを作ろうと、有子の下に登場する質。このあたりの理由は一切説明されることなく、行生にいたっては、質になりきったりもする。本作を読んでぱっと頭に思い浮かんだのは、同じような方式の柔らかな頬や、村上春樹の小説だった。どちらも、謎は謎のままで残し結論をだしていない。そのことに関してとやかく言うつもりはないが、不満があるのは確かだ。本作を最終的にしっかりと道筋の通った作品として終えることはかなり困難なことだと思うが、できるならばそうしてほしかった。

物語として筋道が通っていれば、非常に面白い作品になるような気がした。



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