柔らかな頬 上 桐野夏生


2009.12.9  誰が子どもを連れ去ったのか 【柔らかな頬 上】

                     
■ヒトコト感想
5歳の娘が北海道で行方不明になる。まるで神隠しにあったように、パタリと消息を絶つ。娘が消えたのは自分のせいだと苦しむカスミと、その不倫相手の石山。様々な登場人物たちが、行方不明になった娘という、目に見えない鎖に繋がれているように、身動きできず苦しみ続ける。いったい誰が子供を連れ去ったのか。不可能な状況であればあるほど、ミステリーとしての面白さは際立っていく。カスミや石山のキャラクターが、かならずしも好意的に受け取れず、本作に出てくる全てのキャラクターがどこか病んでいる。後半に登場する内海からは、心の中にはぬぐいきれない後悔を持っているように感じてしまった。上巻でのミステリアスな雰囲気は、下巻でしっかりと解が示されてこそ価値がある。

■ストーリー

カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、北海道で幼い娘が謎の失踪を遂げる。罪悪感に苦しむカスミ。実は、夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。カスミは一人、娘を探し続ける。4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは。

■感想
上巻での、誰が犯人かわからない不思議さは、OUTにはない面白さだ。誰もが容疑者でありながら、誰も犯人ではない。まるで神隠しにでもあったように、忽然と姿を消す子供。カスミと石山の不倫がすべてを引き起こしたと考え、自己嫌悪に陥るカスミ。事件に対してのヒントらしきものや、怪しげな人物が一切登場しない本作。このままであれば、まったく解決できないような雰囲気だ。カスミ本人が子供をどうにかしたのか、それとも石山か、その妻か。可能性を頭の中に思い浮かべるが、それらが当てはまるような描写は一切なかった。

またしても女性が主役の本作。女心の本心を描いていると言えるのだろうか。男である自分が読むと、随分身勝手で、好き勝手なことばかり考えていると思ってしまう。何もかもすべて捨てても石山と一緒にいたいと思ったカスミの心境。そして、実際に子供が行方不明になった時の後悔。人は何か悪いことが起きると、その原因を探り、何かのせいにしたがる。カスミが自分を含めてすべてを恨むというのは、なんとなくわかる。ただ、心のどこかでは、自業自得ではないのかと思ってしまった。事件とカスミの心境がどのようにリンクしていくのか、それも楽しみの一つだ。

後半、突如として登場した内海という元刑事。余命わずかでありながらカスミの手伝いをする。まさか、内海が犯人だなんてことはないのだろうが、内海の登場がカスミにどのような影響を与えるのか。様変わりした石山といい、本作ではあらゆる可能性が捨てきれない。事件に関しての細かな描写がないだけに、普通のミステリーのように探偵役が事件を劇的に解決するなんてことは絶対にないだろう。子供が失踪し、それを契機にして家族までもがめちゃくちゃになる。ミステリーの要素と、女性心理の微妙さと、家族のあり方。複雑な関係はすべて下巻ですっきりと解消してくれるのだろうか。

ミステリー的ではないはずなのに、事件の結末が気になって仕方がない。

 下巻へ



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp