光源 桐野夏生


2010.1.1  映画制作現場の過酷さ 【光源】

                     
■ヒトコト感想
映画製作の現場がどれだけ大変で、どれだけ手間のかかることか。一つのシーンを撮影するのに、丸一日かかることもある。本作を読んでなにより感じたのは、映画製作の大変さと、それにかけるスタッフや監督たちの情熱の濃さだ。本作は大枠では映画製作の現場がメインとなっているが、登場人物たちの中ではそれぞれ主役が変わっていく。あるときは撮影監督で、あるときはプロデューサー、そして、監督や主演俳優など。そえぞれの立場で主張することや、考えることは異なり物語はその利害関係の違いから、大きく変化していく。映画製作の現場を描いているというだけで、非常に興味深かった。本作の続編があるということなので、ぜひとも読んでみたいという気分になった。

■ストーリー

誰よりも強く光りたい。元アイドルの佐和が自分を主張し始めた途端、撮影現場は大混乱。苦り切る人気俳優、怒る監督、傷付く女プロデューサー、佐和に惹かれるカメラマン。金、名声、意地、義理、そして裏切り。我執を競い合って破綻に向かう、世にも身勝手な奴らの逆プロジェクトX物語。

■感想
一つの映画を作るのに、どれだけの労力がかかっているのか。観衆はそんなことを意識せずに見て、好き勝手な批評をする。物語の主張とはずれるかもしれないが、映画製作の大変さをまず感じ取ってしまった。そこに関わる人々の様々な立場を描き、それぞれが自分の思い通りにしようとする。監督であっても、コントロールすることができない。本作に登場するキャラクターの全てに対して、敬意をひょうしたい気分になった。誰もが怠けたいわけではない。映画にかける思いと自分のことを考えての主義主張。強烈な熱量を感じてしまった。

本来なら主役であるはずのカメラマン。それが物語が進むにつれ存在感が薄れていき、最終的には俳優の高村に主役の座を奪われたような形だ。映画製作をめぐり、山あり谷あり、一筋縄ではいかない現場。それをなんとか纏めようとするプロデューサー。主演俳優である高村が行動を起こし、物語を劇的な方向へと導いていく。すぐさま実際の映画でも、本作のようなことがあるのではないかと考えてしまった。女優とカメラマンが付き合い、プロデューサーと監督が対立する。ドロドロとした世界の中では、現実が垣間見えたような気がした。

本作には続編があるらしい。ラストの終わり方を考えると、高村がらみの作品となるのだろうか。才能ある人々が集まり、一つ一つ丁寧に、バカみたいに時間をかけた作品が頓挫するという出来事を、読者としてドキドキしながら読み進めた本作。そのドキドキ感を続編でも味わうことができるのだろうか。はっきり言えば、映画に何の興味もない人が本作を読んでも、退屈なだけだろう。プロデューサー、監督、俳優。すべての人たちの共同作業の結果、映画というものがでてきいると、改めて認識させるすばらしい作品なのかもしれない。

ミステリーでもなんでもないが、ページをめくる手を止めることができなかった。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp