ダーク 上 桐野夏生


2010.1.23  主役にイラついてしょうがない 【ダーク 上】

                     
■ヒトコト感想
ミロシリーズの集大成とでもいうのだろうか。シリーズを読んでいなければ楽しめないのは確実だ。ただ、シリーズを読み進めた段階では、主人公であるミロに対してまったくといっていいほど魅力を感じなかったので、本作に対してもその印象は変わらない。唯一外伝的扱いの水の眠り灰の夢はかなり楽しめたが、それも主役である村善が魅力的だったからだ。本作ではその村善とミロがメインとなるのだが、ミロに対しては嫌悪感すら覚えたので、心地よい気分で読めるものではない。しかし、物語の展開はスリリングですばらしい。そのため、ページをめくる手を緩めることはできない。ミロの行動に理不尽さを感じながらも、それがこのシリーズだと諦めの気持ちで読んでいた。

■ストーリー

「私の中の何かが死んだ」出所を心待ちにしていた男が四年前に獄中自殺していた。何も知らされなかった村野ミロは探偵を辞め、事実を秘匿していた義父を殺しにいく。隣人のホモセクシャルの親友。義父の盲目の内妻。幼い頃から知っている老ヤクザ。周囲に災厄をまき散らすミロを誰もが命懸けで追い始めた。

■感想
シリーズのメリットとしては、登場キャラクターに対して余計な説明をする必要がなく、ある程度出来上がったイメージを利用できるということだ。本シリーズで言えば、村善に対してはかなり高感度が高く、ミロに対しては良い印象はまったくない。その状態でミロが村善との関係に苦悩しながら起こす行動には、何一つ理解できなかった。主役に共感できないばかりか、ちょっとしたイラつきすら覚えてしまう。それは本作が物語りとして優れているからに他ならないが、読んでいる間中、良い気分ではなかったことは確かだ。

シリーズ初期の作品と比べると、作者のレベルも上がっているようで、物語の構成がすばらしくうまくなっている。キャラクターごとに物語を作り上げ、全体として濃密な作品へと仕上げている。村善の盟友である鄭や、ミロと偶然出会う韓国人など、物語を面白くする要素はふんだんに盛り込まれている。そのため、ミロを追いかける者、ミロを手助けする者が入り混じる展開は、面白さを引き立てている。物語の面白さとキャラクターの魅力は直接リンクしないが、大きく関係すると思っている。本作は、それらがお互いを相殺しているような気がした。

ミロと村善の関係。そして、ミロを追う鄭。もともとミロが起こした行動に対して理解できないために、物語の行く末をまったく想像できない。シリーズ全般を通して思ったことだが、このミロというキャラクターは最後まで理解できないような気がしてならない。実の親子でなくとも、育ての親に対して考えるミロの気持ちは不可解以外のなにものでもない。そんなミロが鄭たちに対してどのように言い訳するのか。下巻でシリーズとしての結末をどうつけていくのか。楽しみではあるが、決して良い方向へいかないような気がしてならない。

周囲に災いをふりまくミロに対して共感しろというのは無理な話だ。

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