ダーク 下 桐野夏生


2010.1.28  次回作のための布石か 【ダーク 下】

                     
■ヒトコト感想
ミロの強烈なキャラクターは相変わらずで、なおかつ、好きにはなれない。災いをあちこちにふりまく女。ミロの生き様は、他人を不幸にすることに生きがいを感じるようにすら思えてくる。友部や久恵、そして徐。すべてがミロに関わったために不幸になっている。そして、今までのシリーズから考えると、キャラクターが大きく変貌しているのが本作の特徴かもしれない。それはすべてミロに影響されたと言えるのだろうが…。読み終わっても気分は良くない。それぞれのキャラクターの奥深い人生を読むのは楽しいが、幸せな気分になることはない。本作の終わり方をみると、おそらくまだまだこのシリーズは続くのだろう。災いを招く女が新たに災いの種を残す。終わることの無い不幸を繰り返しているようだ。

■ストーリー

「朴美愛」偽造パスポートを手に入れたミロは海峡を越え韓国に渡る。偽ブランド品を手がける現地の男と即座に愛人契約を結ぶが、彼は自分の身代わりとなって撃たれ下半身の自由を失ってしまう。深い愛情で結びついた二人は復讐を決意した。

■感想
シリーズの総決算として、何か大きな決着がつくかと思っていた。しかし、本作は思わぬ形で終わることになる。物語に決着をつけているというよりも、ミロシリーズに新たな展開をもたせるために、本作があるような気がした。ミロの子供時代から成長過程で続いた様々な人間関係をいったんここで整理し、次へ繋げる。ミロを恨む主要キャラクターたちはまだ存在しているので、次作でもきっと何か大きな出来事を引き起こすのだろう。ミロが愛する徐であっても、この先どうなるかわからない。ミロはすべての災いの種を残したまま、生きていくのだろう。

結局最後までミロには何一つ共感できなかった。そればかりか、本作に登場するどのキャラクターに対してもイラ立ちしか覚えなかった。唯一まともに感じたのは鄭だけで、ミロシリーズの良心とも言うべき村善がいないとなれば、なんの魅力も感じないような気がした。しかし、読んでいるとキャラクターの人生の深い部分から読まされ、いつの間にかそのキャラクターに興味をもってしまう。嫌なキャラであっても、それなりに興味を引くことはある。ミロのために犠牲になった徐。いつの間にか家族をなげうってまでミロに心酔している。その気持ちは一切理解できなかった。

愛と復讐の物語と言えなくもない。復讐のために盲目ながら韓国にやってくる久恵。友部などは、それほどミロを憎むはずがないのに、いつの間にか復讐を誓うキャラクターとなっている。良く考えれば、かなり都合の良いキャラ設定ではある。徐がいきなりミロに恋し、ミロが徐を愛する理由も曖昧だ。物語としての面白さを求めるとそうなるべきなのだろう。ミロの周辺に登場するあらゆるキャラクターがミロの人生を、暗く苦しいものにするために登場しているような気がした。それは、次作でメインとなるはずのミロの子供であっても同じことだ。

確実にシリーズは続いていくだろう。




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