水の眠り 灰の夢 桐野夏生


2009.11.4  トップ屋という特殊な職業 【水の眠り 灰の夢】

                     
■ヒトコト感想
ミロシリーズの中で、ひときわ輝きを放っていたのがミロの父親である村野善三だった。ミロシリーズの外伝的位置づけとなる本作だが、明らかにミロシリーズよりも面白い。とにかくこの主役である村善のかっこよさと、トップ屋という魅力的な世界を描いた作品ならば、つまらないはずがない。村善がどのようにしてトップ屋から探偵業へとシフトしていったのか、ミロとの関係は…。ミロシリーズを読んでいればさらに楽しめるだろうが、未読でもなんの問題もない。週刊誌記者の中でトップ屋という家業があり、そこで活躍する村善。ミステリーとしての面白さよりも、村善を取り巻く世界の面白さにはまり込んでしまった。脇を固めるキャラクターたちも強烈で、明らかにミロシリーズを越える面白さだ。

■ストーリー

昭和38年9月、地下鉄爆破に遭遇した週刊誌記者・村野は連続爆弾魔・草加次郎事件を取材するうちに、一人の女子高生の殺人事件の容疑者に。東京オリンピック前夜の高度成長期を駆け抜ける激動の東京を舞台に、村野の執念が追いつめたおぞましい真実とは。孤独なトップ屋の魂の遍歴を描く傑作ミステリー。

■感想
昭和30年代。週刊誌のトップ記事ばかりを手がける傭兵組織であるトップ屋。まず、このトップ屋の世界が非常に魅力的だ。独自の取材で、秘密を探りだし、トップ記事として掲載する。出版社に属するのではなく、あくまでグループとして行動する。村善のルーツでもあり、キャラクターのベースとなっている。ミロシリーズでは、理解ある父親のような描写しかないが、その裏では只者ではないというオーラをだしていた。本作ではそんな村善が、どのようにしてトップ屋から探偵になっていったのか。また、ヤクザ組織のお抱え探偵となったいきさつなども語られている。村善というキャラクターをしっかりと理解するうえで重要な部分だ。

まず、トップ屋という職業にやられてしまった。独自の調査で他紙を出し抜いてトップ記事を作る。様々な妨害や圧力にあいながらも、独自の道を進んでいく。村善だけでなく、後藤なども強烈な個性を放っている。殺人事件の容疑者となってからも、その動きに一切かわりはない。トップ記事を書くためには、まず綿密な調査が必要であり、その能力が高い村善が調査屋になるのは必然なのかもしれない。裏でうごめく葉山グループという強大な繋がり。ただのトップ屋でしかない村善が、事件の真相を探っていくのは、探偵が調査をするよりも、スリリングで面白いものとなっている。

村善のルーツと共に、ミロとの関係も明らかとなる。詳しいいきさつは本作では語られていないが、村善とミロの繋がりが見えてきた。トップ屋から事件を通して調査屋へと変貌していく村善。事件の複雑さもそう感じさせるのだろうが、明らかにミロシリーズよりも深みを感じた。村善というキャラクターの行動に納得ができ、事件の結末もなんら不自然さを感じない。シリーズものの主役というのは、魅力が第一だと思う。ミロには感じなかった思いを村善に感じてしまった。

昭和30年代の独特の雰囲気と、トップ屋の世界。これだけでも読む価値はある。



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