顔に降りかかる雨 桐野夏生


2009.10.13  薄っぺらい印象 【顔に降りかかる雨】

                     
■ヒトコト感想
一億を持って失踪した親友を探すことになった村野ミロ。ヤクザに疑われしょうがなく探すことから始まる本作。コンビを組む成瀬やヤクザの上杉、そして様々な登場人物。どれをとっても薄っぺらい印象をうけた。作者のデビュー作ということもあり、その他の作品と比べるとレベルが落ちるのはしょうがないのかもしれない。トリックとしての面白さもいまいちで、様々な要素が絡んでいるせいで、全体の印象がバラけてしまったような感じだ。ラストは定番どおり、思いもよらない人物が犯人という流れで、読者を驚かせようとする。ただ、結末を読んでもそこまで驚くということはなかった。話の展開はうまいと思うが、インパクトはない。

■ストーリー

親友のノンフィクションライター宇佐川耀子が、一億円を持って消えた。大金を預けた成瀬時男は、暴力団上層部につながる暗い過去を持っている。あらぬ疑いを受けた私(村野ミロ)は、成瀬と協力して解明に乗り出す。二転三転する事件の真相は?

■感想
村野ミロというキャラクターがいまいちよくわからなかった。特徴的なのは父親がヤクザお抱えの凄腕探偵ということだ。キャラクターとしても、父親の方が立っているように感じられた。ミロに主人公としての特徴があるかというと、見受けられなかった。さらにはコンビを組む成瀬もなんだか薄っぺらい印象しかない。イケメン実業家という顔を持ちながら、裏ではあくどいこともやる。どうもこの二人の関係がちぐはぐしていてしっくりこなかった。多数の登場人物がでてくるが、一番印象に残っているのは間違いなくミロの父親だ。

曜子の手がかりを探すために、ミロは様々な手段をとる。キワモノが多数登場し、アングラの匂いを漂わせている。それでもとってつけたように、様々なヒントを提示し、伏線として曜子が失踪した理由を読者に想像させようとしている。この手のアングラ情報にどれだけ興味が持てるかというのもある。本作の特徴の一つではあるのだろうが、あまり印象に残っていない。特殊な世界の話を持ち出すだけで、ちょっと変わった作品だと思うかというと、なかなかそう、うまくはいかない。

本作の肝である一億円の行方が、以外にしょぼかったというのも、本作のインパクトが半減する原因だろう。誰がどのようなトリックを使って一億円を奪い去ったのか。あっと驚くような展開を期待していただけに、あっさりとした結果にがっくりきてしまった。一億円を探しだせたのはミロだったからだろうか。それとも成瀬のおかげだろうか。曜子の身辺関係を洗っていれば、自然と行き着く結果のように思えてしかたがなかった。そういった意味でもミロと成瀬の存在感は薄れてしまっている。

デビュー作だけに、割り引いて読まなければならない。



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