ブレイブ・ストーリー 中 宮部みゆき


2010.1.17  大人向けファンタジー 【ブレイブ・ストーリー 中】

                     
■ヒトコト感想
剣と魔法のファンタジー冒険物語。こう書くと、まるで子供向けの明るく楽しい、愛と勇気と友情の物語のようだが、そうではない。物語の根底には大人の事情を思わせる、なんだか黒々としたものを感じさせる。中巻からは冒険の仲間も加わり、上巻よりはファンタジー色が強い。しかし、玄界でワタルが遭遇する問題は、種族差別や宗教思想など、決して明るいとはいえないことばかりだ。さらには、”半身”という生贄的役割までおわされる可能性もある。幻界がワタルの現世での想いが反映されているという言葉からわかるように、子供が背負うには大きすぎる問題ばかりだ。事の発端が両親の離婚問題という、とても子供向けとは思えない題材だけに、ただのファンタジーとはいえない深さがある。

■ストーリー

僕は運命を変えてみせる―。剣と魔法と物語の神が君臨する幻界でワタルを待ち受けていたのは、さまざまなモンスターに呪い、厳しい自然、旅人に課せられた数々の障害だった。大トカゲのキ・キーマ、ネコ族のミーナらとともに、ワタルは五つの宝玉を獲得しながら幻界の旅をつづける。先をゆくライバル、ミツルの行方は?ワタルの肩にかかる幻界の未来は?胸躍る場面が次々展開する和製ファンタジーの金字塔!

■感想
上巻がファンタジーの導入部とは思えないほど、強烈な印象を残していた。中巻ともなると、さすがにファンタジー色が強くなってはいるが、それでも明るく楽しいファンタジーではない。キ・キーマとミーナという仲間を引き連れ旅にでるのは、冒険物としては定番だろう。空を自由に飛びまわるカルラ族や、力の強い水人などファンタジー感溢れるキャラクターが登場し、危機に直面すれば誰かの助けで困難を乗り越える。冒険物の定番を踏襲してはいるが、根底には黒々とした空気が溢れている。

冒険の始まりが両親の離婚問題ということもあり、幻界でのワタルは常にそのことを心の隅にやどらせている。さらには、幻界がワタルの想いを反映しているということもあり、かなり強烈なエピソードがある。種族差別や、思想の問題など、普通のファンタジーでは避けて通るようなことも全面に押し出している。誰しもが持っている嫉妬やねたみまでも、本作では扱おうとしている。なおかつ、そのことをワタルに知らしめ、どうにかしろと迫っているようでもある。子供向けにしては、かなり濃い内容となっている。

本作は映画化されているようだが、どの程度まで原作に忠実なのだろうか。本作をそのままアニメ化しても子供はついていけないだろう。もう一人の旅人でもあるミツルにしても、バックグラウンドはワタル以上に強烈で、幻界でも何か裏を感じさせるキャラクターとなっている。幻界での政治的な話や、差別の話なども、ファンタジーっぽくはない。気軽な冒険物とは対極にあるといってもいいだろう。そこそこドラクエ風になってはいるが、それでも物語のベースには陰鬱とした雰囲気がある。

まさか中巻でも上巻の雰囲気を踏襲しているとは思わなかった。子供には理解できない大人の世界かもしれない。

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