ぼんくら 下 宮部みゆき


2009.10.5  日暮らしより先に読むべき 【ぼんくら 下】

                     
■ヒトコト感想
下巻になり、特徴的なキャラクターである弓之助とおでこが登場してきた。長屋から店子が次々と姿を消した原因はなんなのか。そして、地主の思惑とは…。日暮らしを先に読んでしまった関係上、もしかしたらという思いはあった。結末間近に事件の大きな鍵となる出来事では、すでにその結末を日暮らしで知っていたために、緊張感は半減した。長屋の畳をひっくり返して、地面を掘り起こす。本来なら緊迫感あふれるシーンなのだが、そうはならなかった。あらためて思うのは、ある意味ネタバレの状況で読んだために、面白さが半減したが、何の情報もなく読んでいれば、それなりに楽しめたことだろう。

■ストーリー

「俺、ここでいったい何をやっているんだろう」。江戸・深川の鉄瓶長屋を舞台に店子が次々と姿を消すと、差配人の佐吉は蒼白な顔をした。親思いの娘・お露、煮売屋の未亡人・お徳ら個性的な住人たちを脅えさせる怪事件。同心の平四郎と甥の美少年・弓之助が、事件の裏に潜む陰謀に迫る

■感想
鉄瓶長屋で起きた事件。日暮らしでは、そのことを切々と語る場面がある。日暮らしを読んでいるときは、てっきり短編でそれらの話があり、それを見逃していたのかと思った。しかし、平四郎と久兵衛がなにやら因縁がありそうな雰囲気を漂わせ、佐吉が過去を語りだす。そこで初めて、別の作品があると気付いた。それがこの「ぼんくら」なのだが、正直言うと読む順番を間違えた。上巻では、まだそれほど大きな影響はなかったが、後半になってくると、物語の肝の部分をすでに知っていることになる。これは致命的かもしれない。

弓之助やおでこが登場し、平四郎のキャラクターも一段ときわだちはじめたのだが、それでもオチを知っているというのはいただけない。日暮らしと比べると、平四郎がなんだかんだいいながらも、結構大活躍していたり、弓之助の弱点がはじめて明らかとなったり。日暮らしではそれほど登場してこなかった、「なんでも計ってしまう」というキャラクターも面白かった。なつかしのキャラや、すでにキャラクターとして確立されたキャラなどがいるために、読んでいても映像を頭に思い浮かべることは簡単にできる。これで事件が未知のものであったのなら…。非常に残念だ。

本作が面白かったから、続編である日暮らしが書かれたのだろう。長屋の差配人の生活というものがどういったもので、奉公人の主人に対する思いというのもしっかりと感じ取ることができた。ここまで庶民の生活を濃密に描いた作品はないだろう。作者の時代小説を読み慣れてはいるが、今までのどの作品よりも、長屋の情景が頭に思い浮かんできた。それだけに、ほんの少しミステリー風味な出来事のオチを知ってしまっていたのは残念だ。その他の部分がすばらしいだけに、悔やんでも悔やみきれない。

やはり続きものは順番に読むにかぎる。



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