ぼんくら 上 宮部みゆき


2009.10.3  ぼんくらな男が大活躍 【ぼんくら 上】

                     
■ヒトコト感想
順番的にいうと日暮らしの前段階にあたる本作。それを知らずに日暮らしを先に読んでしまったのだが、そのせいで、本作に関してのイメージは良くなった。すでに日暮らしで主要メンバーのキャラクターを把握しているので、すんなりと物語に入り込むことができた。さらには、日暮らしではそれほど活躍しなかった平四郎が大活躍するというのも良かった。鉄瓶長屋で起きた出来事を短編で語り、その後大きな事件が起こり、なにやら怪しげな雰囲気が漂うことになる。ことの詳細は日暮らしでは匂わす程度だったので、まったく問題ない。そればかりか、差配人たちにはどのような意図があったのか、それらを思うと楽しみでしかたがない。

■ストーリー

「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまったんです」―江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。

■感想
ぼんくらというのは平四郎のことを指しているのだろう。日暮らしであれば、それは当てはまるかもしれないが、本作ではイメージよりも活躍しているような印象がある。確かにのんべんだらりとはしているが、それでもしっかりと物事をおさめている。日暮らしで大活躍した弓之助やおでこがでてきていないというのもあるのだろう。平四郎から見た長屋での様々な出来事。しんみりと心温まるエピソードもあれば、にやりと笑えるようなオチがついたものもある。とてもバランスにすぐれている。

メインの事件は下巻にまで持ち越し、日暮らしで語られたような、なんだか遺恨のある出来事となるのだろう。真相は明かされてはいないが、なにやら大きな陰謀が渦巻いていたというのは簡単に想像できた。本作では、まだ上巻ということもあり、それほど大きなインパクトはない。それでも佐吉の差配人としての働きや、長屋に住む人々の生活など、この時代ならでわの面白さがある。長屋での生活というものがどのようなもので、差配人というのがどういった役割をもっているのか。おぼろげだった知識がしっかりとたな卸しされたような感じだ。

鉄瓶長屋をめぐる事件の結末は下巻へと持ち越しになる。このパターンは日暮らしでも経験しているので、すんなりと入り込むことができた。おそらく下巻ではおでこや弓之助も登場し、どちらかといえば日暮らしに近い雰囲気になるのかもしれない。思いのほか大活躍していた平四郎も、これでだんだんと存在感がうすれてくるのかもしれない。日暮らしと比べ、平四郎が活躍することで、物語に新鮮味がうまれてきていたが、それが下巻にも持ち越されているのかどうか…。それが下巻を楽しめるかどうかのポイントだ。

日暮らしを先に読んだことは、決してマイナスではない。

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