朝日のようにさわやかに 恩田陸


2010.10.12  ジャンル無用の短編集 【朝日のようにさわやかに】

                     
■ヒトコト感想
短編集だが特にテーマは決まっていない。ジャンル関係なく、作者の短編を寄せ集めたような感じだ。そのため、長さもまちまちなら、雰囲気もまったく異なる作品がある。全14編と数は多いが、数ページで終わる作品もあれば、長い作品もある。そんな本作の中で最も印象に残っているのは「水晶の夜、翡翠の朝」だ。麦の海に沈む果実のキャラクターがメインとなっており、つい最近それに関連した黄昏の百合の骨という作品を読んだので印象に残っている。ただ、面白いからというのではなく、なじみのあるキャラクターが登場したからだった。強烈なインパクトを残すものはなく、サラリと読める短編集なので、全体として薄い印象しか残らない。

■ストーリー

葬式帰りの中年男女四人が、居酒屋で何やら話し込んでいる。彼らは高校時代、文芸部のメンバーだった。同じ文芸部員が亡くなり、四人宛てに彼の小説原稿が遺されたからだ。しかしなぜ…(「楽園を追われて」)。ある共通イメージが連鎖して、意識の底に眠る謎めいた記憶を呼び覚ます奇妙な味わいの表題作など全14編。ジャンルを超越した色とりどりの物語世界を堪能できる秀逸な短編集。

■感想
共通したテーマがあるわけではないので、後で思い返したとして、明確に印象を思いだすことができるだろうか…。何かしらテーマのある短編ばかりが集められたのであれば、それなりにイメージできるが、本作のようにテーマも違えば雰囲気も違うとなると、印象は薄くなってしまう。表題作であっても、結局なんだったのか、二三日経つとほとんど覚えていない。唯一印象に残っているのは、最初の作品である「水晶の夜、翡翠の朝」だけだ。これも、なじみのあるキャラクターが登場したということで覚えていた程度だった。

ガチガチのミステリーや、軽く余韻を残すものなど、様々な形態の短編が収められている本作。巻末には作者自身でそれぞれの短編についての簡単な感想が描かれている。作者がオマージュした元ネタを知らないと楽しめないものや、どういった意味で書いたのか理解できて初めて楽しめるものなど、巻末の解説を読むとまた違った感想を持つだろう。ちょっとした昔話風な作品もあれば、どこかで見たことのある”冷凍みかん”の話など、昔からのミステリー好きには、それなりに琴線に触れるものがあるかもしれない。

余計な前フリなく、サラリと事件が発生し、そのままトリックを解明する。まどろっこしいやりとりがないのはうれしいが、そのぶん印象は薄い。短編なのでしょうがないことなのかもしれないが、物語に深みが足りないように感じた。通勤通学の電車内でちょうど一つの短編が読み終わるような分量なので、本を読み慣れていない人にはうれしいかもしれない。ただ、作者のファンで、長編の外伝的短編を期待していたような人にとっては、全体的に辛いかもしれない。

長く第一線で活躍している作者には、まれに本作のような短編集がある。




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