黄昏の百合の骨 恩田陸


2010.10.4  挿絵が異様に恐ろしい 【黄昏の百合の骨】

                     
■ヒトコト感想
麦の海に沈む果実で印象的な高校生だった理瀬が本作も主人公となる。百合のにおいに包まれた洋館で暮らすことになった理瀬が、叔母二人を含め、洋館に隠された謎を探ろうとする。一種の探偵モノといえるかもしれないが、理瀬自身が洋館に住むということで、内部の秘密を暴くような感覚かもしれない。魔女の家と呼ばれた洋館にまつわる不思議な噂。周囲で不吉な事件や事故が起き、「ジュピター」といういわくありげな言葉が一人歩きする。何か秘密を抱えた理瀬が、二人の叔母を怪しく疑いながら、洋館の秘密を暴く。ミステリーの王道的展開だが、あいまに挟まれている挿絵が奇妙な怖さを演出している。あの、手足が異様に長く頭が小さい人物の絵は恐ろしすぎる。

■ストーリー

強烈な百合の匂いに包まれた洋館で祖母が転落死した。奇妙な遺言に導かれてやってきた高校生の理瀬を迎えたのは、優雅に暮らす美貌の叔母二人。因縁に満ちた屋敷で何があったのか。「魔女の家」と呼ばれる由来を探るうち、周囲で毒殺や失踪など不吉な事件が起こる。将来への焦りを感じながら理瀬は―。

■感想
洋館に隠された秘密を探るべく理瀬は「魔女の家」と呼ばれる由来を探る。理瀬は普通の高校生的な生活を送りながら、近所に住む同級生や、同級生に恋する男など、ちょっとした学園モノのような雰囲気がある。ただ、基本は叔母二人が暮らす奇妙な洋館にどんな秘密があるかを探ることなので、理瀬は周りの高校生よりも、一段上の大人びた印象をかもし出している。恋だの愛だのにうつつをぬかす暇はなく、もっと大きな問題に直面している理瀬。本人にその気がなくても、周りからは冷たい女と見られたとしてもしょうがないことなのだろう。

洋館に住む叔母姉妹が正反対の人格でありながら、仲良く生活している。そこに入り込んだ理瀬の境遇を知らなければ、あまり面白さを感じることはないだろう。だとすると確実に麦の海に沈む果実を読んでいなければ、ところどころに登場する理瀬の父親の描写と、婚約者である男の説明に混乱するだけだろう。理瀬がおかれた境遇とういのは非常に複雑で、見えない敵が多く、誰が味方かもよくわからない。それでいて、裕福な家系独特の、能力が高い親類がいる。理瀬の境遇がミステリーとしての面白さを倍増させている。

ミステリーとしての結末は洋館にまつわる伝説や、噂をしっかりと補完するものなので、読み終わるとすっきりするだろう。理瀬と従兄弟の男二人だけが、なにやら洋館の秘密を一部知っているような描写や、何もしらない叔母二人がお互いけん制し合うなど、うまい演出も多々ある。どうやら三月は深い紅の淵をとシリーズとして続いているらしい。ただ、読んでいないとまったく理解できないというわけではない。読んでいればより楽しめ、深い味わいを感じることができるだろう。

このシリーズ独特の挿絵は印象に残る。



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