プリズンホテル3 冬 


 2008.5.19  生と死を見直すホテル 【プリズンホテル3 冬】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
冬のプリズンホテル。冬にまつわる宿泊客も登場し、山奥の温泉旅館風な趣も表している本作。前二作と比べると、明らかにヤクザが経営しているという雰囲気は和らいでいる。任侠団体が泊まりにくるわけでもなく。警察の慰安旅行がくるわけでもない。日々戦場のような仕事に疲れ果てた血まみれの看護婦長と、山に命をかける山男だけだ。ヤクザの仁義が多少パワーダウンしているのに比べ、看護婦長の強烈な押しの強さはすでにヤクザを超えている。そして、極めつけは男の中の男。指の数ではヤクザを楽に越えた山男だ。キャラクター的にもこの山男のエピソードに一番期待したのだが、思いのほか淡白に終わってしまった。もっとドロドロした人間模様を求めていたのだろう。

■ストーリー

阿部看護婦長、またの名を“血まみれのマリア”は心に決めた。温泉に行こう。雪に埋もれた山奥の一軒宿がいい…。大都会の野戦病院=救命救急センターをあとに、彼女がめざしたのは―なんと我らが「プリズンホテル」。真冬の温泉宿につどうのは、いずれも事情ありのお客人。天才登山家、患者を安楽死させた医師、リストラ寸前の編集者。命への慈しみに満ちた、癒しの宿に今夜も雪が降りつもる。

■感想
血まみれのマリア。これは作者の某作品にも登場したキャラクターであり、それも非常に印象深い。常に人の命を救い続ける看護婦長と安楽死を選択する医師。対照的な二人の生に対する思いは一種の哲学となっている。なんら結論はでないのだが、生かそうと努力する女と殺そうと決断する男。自殺者が救急病院に運ばれてきたら、そのまま見殺しにしていいのか!というマリアの言葉がやけに印象に残っている。安楽死というのは、極論だが、自殺者はそのままに。下手すると自殺専用の施設を作るのと同じなのかもしれない。

今まで主役級であった小説家が、今回はまたいちだんと陰が薄くなっている。その他のキャラが濃いというのもあるが、あまりに印象がない。マリアや山男が人の生に対して語るのとは対照的に、いつまでも子供のまま、自分の思うがまま、わがままに清子に八つ当たりをする男。人間的魅力は微塵もなく、なぜ、こんなキャラクターなのかと疑問に思ってしまう。本作に登場する者たちは、皆何かしら心にしっかりとした哲学をもっている。その中で、一人、嫌悪感を抱くキャラクターがいてもいいのかもしれないが…。

氷の断崖絶壁を休みなく一キロも登り続ける男。親指と人差し指しかない衝撃な山男ながら、しっかりとした信念をもつすばらしい男。イジメを苦にして自殺しようとした子供をあっさりと突き放しながらも、命の大切さを説く山男。ぶっきらぼうながら雪山に対するしっかりとした哲学をもっている。死を恐れないながらも、生の大切さを何よりもわかっている男。この男がプリズンホテルでどのような出来事を起こすのか楽しみにしていたが、大きな期待を裏切るように、ずいぶんとあっさり終わってしまった。登場シーンにインパクトがあっただけに落胆も大きい。

ヤクザが経営する監獄ホテルというイメージよりも、人の生き死にを見直す哲学的なホテルというような感じだろうか。

 4巻 春へ



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