プリズンホテル1 夏 


 2008.5.8  泊まってみたいホテルNo.1 【プリズンホテル1 夏】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
ヤクザが経営するホテル。そこに宿泊することになった、様々な事情を抱えた人々。経営者だけでなく従業員までも任侠団体が仕切るホテルで起こるどたばたを面白おかしく描いている本作。実際には絶対にありえないシチュエーションでありながら、もしかしたらどこかの山奥では同じようなホテルが存在するのではないかと思わせるほど、真実味に溢れている。従業員がヤクザなら客もヤクザ。不幸にもそんなホテルに泊まることになった熟年離婚間近の夫婦。ドタバタがありながらも、ヤクザ独特の理論で突き通す展開。めちゃくちゃなホテルに違いないが、なぜかニヤリと笑えてしまう。こんなホテルがあれば、ちょっと怖いもの見たさで泊まってみたいものだ。

■ストーリー

極道小説で売れっ子になった作家・木戸孝之介は驚いた。たった一人の身内で、ヤクザの大親分でもある叔父の仲蔵が温泉リゾートホテルのオーナーになったというのだ。招待されたそのホテルはなんと任侠団体専用。人はそれを「プリズンホテル」と呼ぶ―。熱血ホテルマン、天才シェフ、心中志願の一家…不思議な宿につどう奇妙な人々がくりひろげる

■感想
ヤクザなホテルに異動となった熱血ホテルマンと天才シェフ。最初は拒絶反応をしめしていたが、次第にその筋の通った心意気に感化されていく。宿泊客も一癖も二癖もある者ばかり。血なまぐさいドタバタが起きるのかと思いきや、予想外に心温まる人情話となっている。任侠団体独特の義理と人情に厚いもてなし、そして、心中志願の一家でさえもやさしく迎え入れる心意気。このホテルに泊まれば、どんな偏屈な客でも真っ当になって帰っていくようなそんな気がした。

本作の主役である極道小説家。これがはたから見てもかなり性格が悪い人物で、もしかしたら作者の裏の性格を現しているのかと思ってしまう。ヤクザばかりのホテルであっても、一人、偉そうにゆっくりくつろぎながら、愛人に対して容赦のない攻撃を繰り広げる。一つ間違えれば、何の面白味もない、嫌悪感すら感じかねないが、そうではない。軽快な語り口と合間に挿入されるしょうもないギャグ。ギャグとシリアスのバランスが絶妙なので、深刻になりすぎることもなく、それでいて、ただのお笑いに成り下がることもない。

本作の客たちの中で一番印象に残っているのは主役である小説家ではなく、間違いなく熟年離婚直前の夫婦だろう。妻だけが離婚を決意し、最後の旅行と決めたこのホテルで、夫の違った面を次々と目の当たりにすることになる。この夫婦のような家庭は星の数ほど存在するのだろう。その中で最後まで夫の姿を知ることがなく、離婚という決断を下す妻が多い中、本作のようなパターンは珍しいのだろう。しかし、全てはこの常識はずれのプリズンホテルに泊まったおかげということか。なんだか、自分の親世代の話だが、妙にリアルに感じてしまった。

現実に存在すれば、ぜひとも泊まってみたいホテルだ。

 2巻 秋へ



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