フラッタ・リンツ・ライフ 森博嗣


2007.8.28 脇役が主役 【フラッタ・リンツ・ライフ】

                     
■ヒトコト感想
時系列的にはナ・バ・テアダウン・ツ・ヘヴン、本作、スカイ・クロラという順番なのだろう。本作にかぎり、主人公がカンナミでもなければクサナギでもない。脇役扱いだと思っていたクリタが主人公となっている。ちょうどカンナミがくる直前の話なのだろうが、他三作と比べると、どうしても主役の魅力的には一段落ちるような気がした。空中戦も少なく、詩的な雰囲気も薄れている。ただ、ギルドレの秘密がだんだんと明らかになる段階という面白さはある。なんとなく、外伝的な雰囲気だ。

■ストーリー

永遠の命を持ち、戦い続ける子供たちキルドレ。戦闘機乗りのクリタは、上司クサナギの幼なじみによって、彼女が今や、キルドレでなくなっていると知らされるのだが……

■感想
カンナミの前の戦闘機乗りであるクリタ。このクリタがそれほど重要な位置をしめているとはまったく思えなかった。本作で突然主人公として登場し、クサナギとの絡みでギルドレの秘密を明らかにしていく。今までの主人公と比べると、より人間的になっている。ただ、相変わらず、冷たさと無関心さを感じさせる会話シーンが多々ある。このクリタを主役とする意味を考えると、どうしてもカンナミに対してのお膳立てのような気がしてならなかった。

本作にもお決まりどおり、ティーチャが登場する。シリーズとおしてクサナギとの宿命というものを感じさせる流れだ。そして、その宿命のライバルと出会うクリタ。クリタのパイロットとしての実力が、カンナミやクサナギと比べてどの程度かという明確な記述はないが、恐らく二人には負けるのだろう。本作はクリタが主役ということもあって、戦闘機での戦闘にはそれほどポイントを置かれていない。暴かれるギルドレの秘密というのが本作のメインテーマなのだろう。

クサナギやクリタが所属する組織や、敵対する組織がまったく説明されないのも本シリーズの特徴だろう。戦争をする組織同士は一切排除し、ただ、そこに参加するパイロット一個人に焦点を当てている。全体的な規模感は小さく感じるが、戦争という大きな枠組みの中であっても、結局は一個人同士の戦いなのだということを、認識させるには効果的なのだろう。

シリーズとして、徹底した雰囲気を保ちながらも、読み手を飽きさせない。これは難しいことだが、平然とやってのけるあたりは、作者の力量なのだろう。



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