ダウン・ツ・ヘヴン 森博嗣


2007.2.28 中だるみ的作品 【ダウン・ツ・ヘヴン】

                     
■ヒトコト感想
時系列的にはナ・バ・テアスカイ・クロラの間にあたる作品。スカイ・クロラで秀逸だったピリピリとした雰囲気が薄れてきている。生きるか死ぬかの瀬戸際という雰囲気もなくなりつつある。あるのは成長したクサナギの葛藤と、カンナミとの運命的な出会いだけだろう。スカイ・クロラでのクサナギの行動を裏付けるような描写が多数あり、その後のクサナギの人格形成に非常に重要な作品となっている。ただ期待した戦闘シーンは少なく、あってもどこか物足りなかった。緊張感を生む要因はやはり犠牲の上に成り立っているのだろう。

■ストーリー

戦闘中に負傷して入院、空を飛べず鬱屈した日を過ごす草薙。組織にとって守るべき存在となりつつある自分になじめないままに―そしてある日「少年」に出会う。真っ黒な澄んだ瞳。その中に、空がある。そこへ墜ちていけるような。スカイ・クロラシリーズ第三弾。

■感想
クサナギがどのようにして管理職になったのか、そしてカンナミとの運命的な出会い。ナ・バ・テアから引き続きクサナギが主人公で物語が進んでいる。どうしても最初の衝撃からカンナミのインパクトが大きかったため、それと比較するとクサナギの行動原理にはあまり魅力を感じない。戦闘シーンも段々と尻すぼみするようであまりハラハラドキドキすることがなかった。

作品的にはもしかしたら存在しなくともスカイ・クロラには続くのかもしれない。しかしシリーズをより深く楽しむためには必要なものだろう。クサナギのただ飛びたいという思いが、どの段階で管理職をよしとするようになったのか。それは本作では語られていない。その傾向は多少見られたが、まだとても納得できるような理由ではない。ティーチャとクサナギ。この二人の関係を決定付けるように、カンナミとクサナギの出会いで物語の深みを増している。

最後にはティーチャとの戦闘がある。今までの前二作では人の死というものがわりとクローズアップされていた。しかし本作はその死の意識が極めて薄い。何かご都合主義的な作品のように決して主人公は死なないし、安全な位置にいるという雰囲気を感じた。その意味では最後のティーチャとの戦いに期待したが、すでにスカイ・クロラで登場しているティーチャを知っているので、ここで決着がつくことはないとあらかじめわかっていた。それが多少読むテンションを下げたというのもある。

全五作と言われている本シリーズの中だるみ的作品なのかもしれない。



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