スカイ・クロラ 森博嗣


2007.2.10 鋭利な刃物のような 【スカイ・クロラ】

                     
■ヒトコト感想
ナイフのような鋭さと冷たさ、そして詩的な雰囲気をあわせもつ作品。戦闘機のパイロットが永遠を生きる子供だというのは作者の設定では良くあるパターンかもしれない。しかしそれを差し引いても本作の空気を切り裂くような雰囲気、そして決して臨場感溢れるとは思えないが、何故か心引かれる戦闘機での空中戦シーン。登場人物たちの会話も血が通ってないような冷たさを感じるときもあれば、人間臭さを思わせる部分もある。冷たさの中にも内に秘めた思いが、鋭さを増して突き刺さってくる。そんな印象を受けた。

■ストーリー

僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供―戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。

■感想
感情を表にださないエースパイロットであるカンナミ。淡々と作業をこなすように相手戦闘機を打ち落としていく。そんな設定は良くありがちかもしれない。しかし本作は、その冷たさの中にも鋭さと共に、ふとした人間臭さというものを感じることがある。会話の中で登場する何気ない一言や同僚とのくだらない会話。パーフェクトなロボット人間ではなく、人間味もちらりと見せている。その割合が素晴らしいのかもしれない。

激しい戦闘描写の中で冷静なカンナミの状況分析と、当然ながら起こる戦死。この戦死の部分が冷たく引き離すでもなければ、熱く感情を爆発させるでもない。本当に身近にこんなことが起きれば、こうなるのではないかと思うほど、的確に表現している気がした。戦闘が日常茶飯事な世界ではそのオン/オフの切り替えが重要なのかもしれないと思えてきた。

作者のミステリー以外を始めて読んだがとても素晴らしいと思った。詩的な部分もありながら、しっかりと次へ繋げるような伏線も張り。続きを読ませたくなるような終わり方をしている。本作単体でも十分に作品として成立していると思うが、おそらくこの後に続く作品を読んだほうがより、物語に入り込むことができるのだろう。

激しい戦闘シーンを頭に思い浮かべると、まるで自分がエースパイロットになったような気分にさえなった。



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