病葉草紙 


 2025.4.22      虫がすべての災難の元凶? 【病葉草紙】


                     
病葉草紙 [ 京極夏彦 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
京極夏彦の新シリーズ。「巷説百物語」で登場した学者の棠庵が登場する。長屋から一歩もでずに知識だけで事象を分析して、それは虫のせいだという。長屋の中には本が大量に積まれており、ほとんど長屋からでない。それでいて、大量の知識とうんちくにより相手を納得させる。京極堂に近いキャラかもしれないが、何かと虫に詳しいというキャラ付けがされている。

狂言回し役は長屋の大家の息子である藤介だ。何かと長屋の住人の問題を、棠庵に持ち込んで物語はスタートする。無理難題をいわれて困っている娘や高級料亭で四人もの人が死亡した話など、ミステリー的な展開ではあるが、安楽椅子探偵として棠庵がすべてを看破した上で、理由は虫として説明している。

■ストーリー
人の心は分かりませんが、 それは虫ですね――。ときは江戸の中頃、薬種問屋の隠居の子として生まれた藤介は、父が建てた長屋を差配しながら茫洋と暮らしていた。八丁堀にほど近い長屋は治安も悪くなく、店子たちの身持ちも悪くない。ただ、店子の一人、久瀬棠庵は働くどころか家から出ない。年がら年中、夏でも冬でも、ずっと引き籠もっている。「居るかい」藤介がたびたび棠庵のもとを訪れるのは、生きてるかどうか確かめるため。

そして、長屋のまわりで起こった奇怪な出来事について話すためだった。祖父の死骸のそばで「私が殺した」と繰り返す孫娘(「馬癇」)、急に妻に近づかなくなり、日に日に衰えていく左官職人(「気癪」)、高級料亭で酒宴を催したあと死んだ四人の男(「脾臓虫」)、子を産めなくなる鍼を打たねば死ぬと言われた武家の娘(「鬼胎」)……「虫のせいですね」棠庵の「診断」で事態は動き出す。「前巷説百物語」に登場する本草学者・久瀬棠庵の若き日を切り取る連作奇譚集。

■感想
なんでも虫のせいですね、と語る棠庵が事態を解決に導く。それは外には大ぴらに言えないことを虫のせいにして隠している場合や、理由を解明すると多方面に迷惑がかかるからと、虫のせいにしたりとそれぞれに理由がある。

印象的なのは、高級料亭で食事をした男四人が死んだ事件だ。食中毒や食べ物に毒が混入されていた場合は、料亭の存続にかかわる。棠庵がすべてを見破った上で、容疑者が死亡していることからすべては存在しない架空の虫のせいにしておさめている。

「鬼胎」は、武家の娘が藪医者から鍼を打たないと死ぬといわれたら…。江戸時代に跡継ぎや子供の問題はかなり深刻だ。鍼を打てば治るのかと思いきや…。そこには様々な思惑があった。棠庵はまったく外に出ることなく、状況証拠だけですべてを解き明かしている。

さらには、へんてこな虫のせいにして、それを真に受けて慌ててしまう藤介たち。特に藤介は長屋の実質的な大家として常に長屋を周っているので、長屋の評判を心配したりもする。棠庵が考案した変な虫がわいている長屋なんて評判が立つのは迷惑でしかない。

一人暮らしの男が何も口にせずに部屋にこもりきっている。が、その男はだんだんと太り始めている。何も食べなければガリガリに痩せていくはずなのだが…。藤介は棠庵に相談するのだが…。勝手な思い込みとして男と思われた人物が実は女で、太っていくのではなく単純に妊娠したのでは?と勝手に想像した。

公にできない人の子供ということで、隠れていたというストーリーなのだろうと勝手に想像したのだが…。オチは驚くべき展開となる。妊娠という安易なオチではなかった。

虫のネタが続く限りは、シリーズは続くのだろう。



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