インテリジェンスの賢者たち (新潮文庫)
評価:2.5
■ヒトコト感想
インテリジェンスエッセイとでもいうのだろうか。別世界の住人たちの生活という感じだ。諜報活動だとか、スパイの類ではない。インテリジェンスに携わる人物との交友録ということなのだろうか?NHKの特派員時代に知り合った人々との実話であればかなり強烈なのだが…。ただ、どうしても上流階級の世界のように感じてしまう。
見方を変えると、作者の上質な交友関係を自慢されているようにも感じてしまう。外交の難しさとインテリジェンス関係者との関係が興味深く描かれているのは間違いない。一般人が知らないところで、日夜何かしらの諜報活動が行われているということなのだろう。それらの一端を感じることができるエッセイという感じだ。
■ストーリー
美しき薔薇に謎めいた名札を添える老女。鋭い警句を発する黒衣の碩学。国王の信頼厚いドン・キホーテ。世界には、情報の奔流から未来を掴み取る目利きたちがいる。ケンブリッジ、マドリッド、ワシントンD.C.。時に取材者として、時に旅人として、著者は各国のエキスパートと交友を続ける。本邦唯一のインテリジェンス作家が切り取った、二十九の光景。『ライオンと蜘蛛の巣』改題。
■感想
筆者の幅広い交友関係を感じずにはいられないエッセイ集だ。大人の社交というか、上流階級のにおいを感じずにはいられない。世界の主要都市を渡り歩き、様々な人々と知り合う。取材者としての能力がそうさせるのか、知り合いの話であっても客観視しているような雰囲気がある。
大人の対応というべきだろうか。エピソードが一般人では計り知れない部分の話なので、どこか夢物語のように感じてしまう部分があるのは間違いない。スパイ小説のようなヒリヒリした情報戦ではない。
すべてがインテリジェンスに関わるエッセイではない。競馬のサンデーサイレンスの話だとか、ギャンブルの話だとかもある。国際政治もありインテリジェンスもあり、911の裏側あり。特に印象的なのは、映画としても見たことがある「ユナイテッド93」についてだ。
監督が遺族に話を聞いて想像で描いた作品なのだが…。実は遺族に対して旅客の何名かは電話をして状況を連絡していたということらしい。そんな少ない情報を集めて映画を作り上げたことに衝撃を受けた。
スリリングな展開が描かれているわけではない。インテリジェンス系では「佐藤優」の作品をイメージしてしまった。国を背負って国の利益のために諜報活動を行う。そんなヒリつくような緊迫感があるわけではないのだが、大人のインテリジェンスというような雰囲気を感じてしまった。
命をかけて諜報活動に邁進するという熱さを感じるエッセイではない。元アメリカ大統領のクリントンがどのような性格で、対中国の政策を考えていたのかなど、面白いエッセイも多い。
読みやすいエッセイ集だ。