白亜紀往事 [ 劉慈欣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「流浪地球」の短編で描かれていた恐竜と蟻の文明の物語が中編として描かれている本作。恐竜と蟻がそれぞれ文明をもつ物語だ。お互いが補完関係にあり、それぞれの文明が発達していく。恐竜が高い文明をもつに至るのはなんとなくイメージできる。人間のように進化していけば可能なのだろう。
蟻はその特性上、一匹では文明としての効果は少なく、大量に集まることで文明としても威力を発揮するようになる。蟻の文明といえば、「三体」で日本を侵略する三体世界の正体は実は蟻のような小さな生物だったというような記載もあった。蟻がその体の小ささを活かして恐竜文明と協力するくだりや、恐竜と蟻が戦争した場合の闘い方など、強烈な流れもある。
■ストーリー
恐竜と蟻が文明を築き、地球を支配していたもう一つの白亜紀。
■感想
恐竜と蟻の文明が進化していくとどうなっていくのか。人間がいない世界で恐竜と蟻がどのような変遷を経て進化していくのか。単純に考えると蟻が進化するのは難しいように思えた。恐竜は明らかに哺乳類として、食物連鎖のトップに立つので、そのまま進化し続ければ猿から人間になったように高い知能を持つことは可能なのだろう。
恐竜と蟻の進化の過程が興味深く描かれている。特に蟻については、特殊な状況となっている。最初は恐竜の歯に挟まった肉片を取るだけの作業が、最終的には恐竜の肉体に入り込み医療行為を行うまでになる。
恐竜文明と蟻の文明が共生し共に進化し続けていくとどうなるのか。人間と同じように神についての議論となり、宗教戦争のような形となる。お互いの神の形がどうなのかと譲らない状況から戦争が起きる。単純に恐竜対蟻の1対1の戦いならば、圧倒的に恐竜が有利なのだが…。
蟻の物量とその小さな体は恐竜の脅威となるのが面白い。単純に数の問題もあるのだろう。恐竜としても蟻の物量と、体に入り込まれると恐竜でも手も足もでないことに恐れおののいている。恐竜と蟻の組織同士の戦争であれば互角というのが面白い。
お互いが消耗するだけの戦争はすぐに停戦となる。ただ、その後の展開はまさに人間社会を思わせるような流れだ。恐竜のテクノロジーの進化と恐竜同市での戦争で地球が破壊されかねない状態となっている。そのことに危機感をもった蟻は恐竜世界に無茶な要求を突きつけることになる。
蟻の地球全体を考えた策略と、恐竜たちのお互いを首を絞めるだけの戦略がすさまじい。一歩間違えれば地球が滅びることを抑止力として扱うことが、ラストの崩壊へとつながっている。
強烈な世界観だ。