流浪地球 (角川文庫) [ 劉慈欣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「三体」の劉慈欣による短編集。相変わらずのスケールのでかさと、他短編で登場した恐竜が高度な文明をもつ世界など、非常にインパクトのある短編が多数ある。系統としては「三体」と同様に地球や宇宙に関するSF短編かと思いきや、少し毛色の異なるコンピュータソフトに関するSFもある。近い将来、すべての機器がネットにつながりAIにより制御される世界がきたとしたら、起こる可能性のある恐怖の未来ということだろう。
作者の作品を読んでいると、宇宙の広大さを思い知らされる。それと共に、地球外生命体がたとえ存在したとしても、地球にたどり着くために光の速さでも百年かかるとなると、宇宙人の侵略なんてのは現実的ではないと思えてしまう。
■ストーリー
●ぼくが生まれた時、地球の自転はストップしていた。人類は太陽系で生き続けることはできない。唯一の道は、べつの星系に移住すること。連合政府は地球エンジンを構築し、地球を太陽系から脱出させる計画を立案、実行に移す。こうして、悠久の旅が始まった。それがどんな結末を迎えるのか、ぼくには知る由もなかった。「流浪地球」●惑星探査に旅立った宇宙飛行士は先駆者と呼ばれた。帰還した先駆者が目にしたのは、死に絶えた地球と文明の消滅だった。「ミクロ紀元」
●世代宇宙船「呑食者」が、太陽系に迫っている。国連に現れた宇宙船の使者は、人類にこう告げた。「偉大なる呑食帝国は、地球を捕食する。この未来は不可避だ」。「呑食者」●歴史上もっとも成功したコンピュータ・ウイルス「呪い」はバージョンを変え、進化を遂げた。酔っ払った作家がパラメータを書き換えた「呪い」は、またたく間に市民の運命を変えてしまう――。「呪い5・0」
■感想
「呪い5.0」は今までの作者の作品と毛色が違うので強く印象に残っている。最初はごく普通のWindowsOSに入り込むウィルスだった。無害なウィルスが様々な人の手によって次第に変化していく。もはや製作者の意図とは異なる形でネット社会を侵食していく呪いのコンピュータウィルス。
途中でワイルドカードの説明が入り、コマンドプロンプトでのワイルドカードの使い方の例が示され。。。これが最後のオチに使われるのが最高だ。自分的に、コンピュータウィルスやコマンドプロンプトの記述など、非常になじみ深い部分だったので楽しんで読むことができた。
「呑食者」は恐竜と蟻と人類の物語。恐竜が高度な文明をもつ社会であり、地球を侵略するという内容は作者の他のエッセイでも語られている内容だ。そこから人類は恐竜のペットや食料として過ごすしかないのか。実は人類はひそかに恐竜文明を排除するための行動にでていた。
人類よりもはるかに高度な文明に対して対抗するという流れはよい。さらには恐竜のような巨大な生物がどのようにして文明を維持できるのか。作者は極端に巨大な生物として恐竜文明を描き、蟻のような極小の生物の文明を描くのが好きなのだろう。
表題作である「流浪地球」は強烈だ。太陽の爆発から人類を守るために、地球にロケットを取り付けて太陽系から脱出しようとする。とんでもないスケールの物語であることは間違いない。人類を生かすために地球そのものを宇宙船とみなして、太陽系外へと移動しようとする。
宇宙の壮大さや、光の速さで何百年もかかるほど遠い距離の知的生命体との交流となる。この壮大さは、普通の人では想像できない。作者の作品ではよく登場してくるパターンではあるのだが、かなり壮大だ。
映画化もされているようなので、そちらもぜひ見てみたい。