冷血 下 


 2022.3.11      衝撃的な事件の動機を解明する 【冷血 下】

                     
冷血(下) [ 高村 薫 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻で大まかには事件は解決している。事件が発生し刑事が捜査し逮捕までの濃密な時間はすばらしい。下巻では逮捕されてからの事情聴取と裁判がメインとなっている。上巻に比べると、ストーリー的に新しい要素が登場するわけではない。井上と戸田がどのような心境で事件を起こしたのか。特に理由もなく凶行に至ったというのがリアルだ。世間の事件もおなじような感じなのかもしれない。

合田から見た二人の心境というのは、不思議な心境なのかもしれない。事件を振り返るシーンでは、子供を滅多打ちにする描写もある。その時の戸田の心境はあいまいなままだ。ただ、何度読まされたとしても子供まで皆殺しにするシーンは心が痛くなる。上巻で子供たちの生活が濃密に描かれているためなのだろう。

■ストーリー
井上克美、戸田吉生。逮捕された両名は犯行を認めた。だが、その供述は捜査員を困惑させる。彼らの言葉が事案の重大性とまるで釣り合わないのだ。闇の求人サイトで知り合った男たちが視線を合わせて数日で起こした、歯科医一家強盗殺害事件。最終決着に向けて突き進む群れに逆らうかのように、合田雄一郎はふたりを理解しようと手を伸ばす―。生と死、罪と罰を問い直す、渾身の長篇小説。

■感想
上巻で事件はほぼ解決している。ただ、そこから証拠集めと動機を解明する作業が待っている。どのような動機で事件を起こしたのか。井上と戸田の証言からは明確な動機を見つけ出すことはできない。瞬間的に怒りがわいてきた上での行動なのか。

明確な動機がないことが合田や検事たちを迷わすことになる。そんな中で戸田が歯の病気から発展した癌で死亡する。合田が犯人たちとなぜか気持ちが近づいていき、そこから井上とは手紙のやりとりをするまでになる。井上が妙に人を引きつける魅力があるということなのだろう。

裁判はあっさりと決着がつくのだが、そこで事件を振り返る描写がすさまじい。明確な動機がなく流れで一家を皆殺しにしてしまう心境。子供を皆殺しにする描写については、戸田がいないことからさらに突っ込んだ動機の解明には至らないが、強烈なインパクトがあるのは間違いない。

さらには、何度読んでもこの場面では気分が悪くなる。上巻で、子供たちの心境が濃密に描かれているため、ただのモブキャラとして死亡したわけではない。

井上が死刑を待つまでの間、合田とささやかな手紙のやりとりを行うのは強烈だ。それまで好き勝手してきた人生ではあるが、自分が犯した罪を理解し、死刑になることに対しての恐怖をほとんど感じさせない。躁うつ病の影響なのかもしれないが…。

上巻で物語としては完結しており、下巻は後始末的な内容ではあるが、新たな新要素はでてこない。事件を犯した犯人周辺の人物についても特別印象のあるキャラはいない。上巻でのインパクトのすさまじい事件捜査の流れからするとトーンはダウンしている。

全体通して強烈なインパクトがあるのは間違いない。



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