幽霊を創出したのは誰か? 


 2021.10.26      リアルの世界での幽霊はデータなのか? 【幽霊を創出したのは誰か?】

                     
幽霊を創出したのは誰か? Who Created the Ghost? (講談社タイガ) [ 森博嗣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
ウォーカロンシリーズ。幽霊がでるという噂のある場所へやってきたグアトとロジ。そこでふたりはそれぞれ幽霊を目撃することになる。科学の進歩で人間が死ななくなり、新たな人間も産まれなくなった世界。人が死なない世界での幽霊とはどのような意味があるのか。幽霊になった男の弟が登場し、幽霊を目撃したふたりから話を聞きたいと男の屋敷に招待されることになる。

バーチャルとリアルのはざまで生きる人々。リアルの体はもはや必要ないという論調になりつつある。すべてはネットワークを通じて制御されるので、今、目の前で起きている現象はコンピュータによるホログラムの可能性すらある。リアルに生存することにほとんど意味がなくなった世界ということなのだろう。

■ストーリー
触れ合うことも、声を聞くことも、姿を見ることすら出来ない男女の亡霊。許されぬ恋を悲観して心中した二人は、今なお互いを求めて、小高い丘の上にある古い城跡を彷徨っているという。城跡で言い伝えの幽霊を思わせる男女と遭遇したグアトとロジの許を、幽霊になった男性の弟だという老人が訪ねてきた。彼は、兄・ロベルトが、生存している可能性を探っているというのだが。

■感想
幽霊を目撃したグアトとロジ。そこで取り乱すわけでもなく、冷静に状況を判断する。ホログラムの可能性を探りつつ、考えをめぐらせるのだが…。幽霊を見たふたりから話を聞きたいと、男の屋敷に招待される。ここで、グアトたちは奇妙な現象に遭遇する。

突然、部屋の中に外で見た幽霊と思われる電子的な存在が浮かび上がる。ここで、グアトは幽霊ではなくデータとしての存在だと気づく。AIが制御する幽霊とでも言うのだろうか。自分で思考ができず、ただ出現しろと命令されたから出てきた、というのがいかにも怪しげだ。

屋敷の中には特別なコンピュータはない。AIにより制御された屋敷により幽霊現象が起こされているのかと思いきや…。幽霊とはバーチャルの中の世界で生きる者と、もしかしたら同じなのかもしれない。人が死なない世界ではリアルとバーチャルの違いに意味はない。

リアルを捨てても良いとすらなっている。極端な世界だが、バーチャルの世界で生きつつ、リアルの世界で生きて、定期的に会合を開くというパターンも良いのかもしれないと語っている。もはやまったく理解できない世界だ。

肉体に縛られないということは、リアルよりもバーチャルの方が自由なのは確かだ。リアルとバーチャルの違いがない世界は、もはや意味がないのだろう。「マトリックス」のように仮装世界だけで生きるという流れのことだ。

本作はその過渡期ということなのだろう。結局は男の兄ロベルトはバーチャルの世界で生きており、コンピュータは男が持っていた杖の中に隠されていたということだ。AIが進化すると、人はただの入れ物でしかない。バーチャルというか頭脳がすべてだということなのだろう。

まさにマトリックスの世界へと行き着く流れだ。



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