ヴェネツィア便り 


 2018.4.19      特殊能力とホラーな短編集 【ヴェネツィア便り】

                     
ヴェネツィア便り 北村薫
評価:2.5
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■ヒトコト感想
作者得意のちょっとした謎を含んだ短編集。暗い雰囲気の作品が多い。がっつりミステリーというわけではなく、日常の中に少しだけ謎が入り込む。全体的に暗い物語が多い。ホラーもあり、ビジュアル的に想像しやすい物語ではない。作者の他の作品に通じるような短編もある。北村薫ファンならば、この雰囲気を楽しめるだろう。

タイトルがエッセイ風なので、何も知らない人はイタリア旅行エッセイなのかと想うかもしれない。複雑なトリックのミステリーでもない。サラリと読みすすめることができるが、心の奥底に残るような作品もある。ただ、よく考えずに読みすすめると、何も頭に残らない場合もある。北村薫ファン以外には辛い作品かもしれない。

■ストーリー
ヴェネツィアは、今、輝く波に囲まれ、わたしの目の前にあります。沈んではいません。――あなたの「ヴェネツィア便り」は時を越えて、わたしに届きました。この手紙も、若いあなたに届くと信じます――なぜ手紙は書かれたのか、それはどんな意味を持つのか……変わること、変わらないこと、得体の知れないものへの怖れ。時の向こうの暗闇を透かす光が重なり合って色を深め、プリズムの燦めきを放つ《時と人》の15篇。

■感想
「岡本さん」は強烈な印象がある。作者の作品である「リセット」などと近いかもしれない。平凡なOLの女子が大事な契約書をシュレッダーにかけてしまう。焦ったOLは近くにいた岡本さんに相談するのだが…。

岡本さんに特殊な能力があるという流れなのだが、さすがに自由自在に好きなだけ使えるわけではない。また、岡本さんの特殊能力が周りに知れ渡ると、それをあてにしてくる人もいる。非常に恐ろしい流れになることは想像できる。この流れはすばらしい。

作者が描く特殊能力モノは、使う側の人間をかなり濃密に描いている。すばらしく魅力的な能力ではあるが、使う側にもリスクがある。この制限と、周りは特殊能力をあてにしてしまうという葛藤。となると、行きつく先は、自分の能力を隠し人との関わりを避けるしかない。

岡本さんというタイトルから想像するのは、会社で窓際扱いされている平凡な中年サラリーマンだ。そんなサラリーマンの特殊能力を、もし会社の上層部が知ったとしたら…。非常に恐ろしい結末を想像してしまう。

その他にも、日常のちょっとした謎を描いたミステリー短編集がある。心中をしようとすることから始まる双子の兄弟の物語や、閉じられた箱を開いてはならない「開く」など。特に「開く」は、作者らしい恐ろしさがある。昔から長い間閉じられているモノを開けてはならないらしい。

浦島太郎の玉手箱や開かずの扉のことなのだろう。古ぼけた箱を開けると、中には何もない。ただ、その後体調を崩す。こんな短編を読むと、もし、目の前に長年開けられていない箱があったら、怖くて開けれなくなる。

作者のファンにはおすすめの短編集だ。



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