海と月の迷路 下 


 2019.11.20      排他的な島内でひとり気を吐く新人警官 【海と月の迷路 下】

                     
海と月の迷路(下) (講談社文庫) [ 大沢 在昌 ]
評価:3
大沢在昌おすすめランキング
■ヒトコト感想
軍艦島内部で8年前にも少女が殺されたと思われる事件が起きていた。荒巻は島民となあなあの関係を築きたい上司には無断で独自に調査をすすめる。島の内部に抑えようのない性癖をもつ者がおり、満月の日に殺人衝動を抑えることができないでいる。荒巻は正義感を振りかざしたせいで島民たちからつまはじきにされることになる。

自分の信念を曲げ周りに烏合すればすべては問題なくすすむはずだったのが…。荒巻の調査が上司にバレ、周りから攻められる場面が本作のピークなのかもしれない。そこから逃げ出さずにひたすら調査を続け、数少ない仲間と共に犯人を追い詰めていく。島という排他的な場所では、人間関係が何より大事だというのがよくわかる流れだ。

■ストーリー
もう誰も信用できない? 疑心暗鬼になる「軍艦島」のなかで、ひとつの正義を貫くことはできるのかーー。若き警察官・荒巻の”許されざる捜査”は、「全島一家族」を標榜する島に波紋を広げる。八年前にも小女が水死しており、裏には信じがたい事実が秘されていた。密室ともいうべき島でつながる二つの不審死。その謎を解く鍵は、満月の夜にあった。

■感想
上巻で二つの不審死の謎を解くために奔走した荒巻。本土に上陸し独自の調査を続けることで、過去に東京にいたことがある者という条件が割り出される。同じく猟奇殺人者を追い続ける長谷川と組夫の頭と共に鉱山関係者をしらみつぶしにあたることになる。

ここで狭い島の中でどのようにして秘密裡に調査を続けるかの問題がでてくる。ある者は自分が疑われていると知ると、やましいことがあるだけに自分から積極的に調査に参加してりもする。荒巻は新人警官ながら時には嘘をうまく使い協力者を増やしていく。

荒巻の上司は島民といかにうまくやっていくかだけを考えている。そのため、荒巻が過去の事件を調査していると知ると、必ず反対する。それをわかっている荒巻は上司に内緒で調査を続けるのだが…。ここでひょんなことから荒巻が調査していることが上司にバレてしまう。

そこで上司と険悪な雰囲気となる。上司としても自分だけがのけ者にされていると知ると強烈な怒りがわいてくるのだろう。島民からも別件でつまはじきにされた荒巻。普通ならばここで心が折れるのだが、荒巻の正義感は執念で粘り続ける。

とうとう荒巻は真犯人を見つけ出すことに成功する。それは上巻から登場していた人物である。荒巻たちが必死に身辺調査をしていた鉱山関係者ではない、盲点をつく犯人だ。島で生活するためには鉱山関係者だけが全てではない。食事をし医者にかかり美容院も必要で学校も必須となる。

ある意味、極度に小型化され排他的な島の内部では、お互いが監視状態にあるという安心感からか、軽微な犯罪を見逃すふしがある。それがエスカレートしていくとどうなるのか…。

島民からつまはじきにされた荒巻の心情を思うと苦しくなる。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp